マーケティングテクノロジーで世界を獲る!十億円超M&Aの決め手は「理念・文化の一致」
- 売却した会社
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ビジネスサーチテクノロジ株式会社 様
- 買収した会社
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株式会社ジーニー 様
2020年11月 、サイト内検索エンジンなどの開発・コンサルティングを手掛けるビジネスサーチテクノロジ株式会社(以下、BST)は、マーケティングテクノロジーの領域で幅広くサービスを展開する株式会社ジーニーに株式を譲渡されました。今回はBSTの元代表取締役・現顧問の川邉雄司氏と、ジーニーの代表取締役社長で、現在はBSTの代表取締役社長も務める工藤智昭氏にインタビュー。譲渡金額11億円という大型のM&A仲介となった今回の経緯や決め手について、弊社吉岡がお二人からお話を伺いました。
コーポレート・ECサイトに強みのある検索エンジンを提供
まず、BSTの事業内容を教えてください。
川邉氏:
当社は2004年の会社設立以来、検索エンジンソフトウェアの開発・提供を行い、近年はコーポレートサイトやECサイトのサイト内検索をSaaSで提供してきました。
サイト内検索という機能自体は一般的になっているかと思いますが、我々のような有償で提供するサイト内検索サービスには、求められる水準がより高まっています。
例えばECサイトでは、検索されたキーワードに対してどのような並び順で検索結果を表示させれば売上が伸ばせるのかは、単純な機能のお話しではないでしょう。コーポレートサイトでは、ユーザーが知りたい情報を適切にサイト内検索に表示させることで、そのユーザーが直接電話で問い合わせをする、といった手間の削減とサポートコストの削減が両立できます。
また、どのようなキーワードで検索したかというデータはサイト訪問者の意図を知る上で貴重なデータとして扱うことができます。
ツールの提供だけでなく、こういった利用企業様のニーズに合わせてサイト内ナビゲーションのコンサルティングも行えるのが、BSTの強みとなっています。
株式譲渡を検討されるようになったきっかけは何でしょうか?
川邉氏:
実はBSTにとって、今回が2度目の株式譲渡です。一度目は2014年、SBI FinTech Solutions(当時のSBI AXES)に譲渡し、連結子会社となっています。
譲渡後は順調に収益を積み重ねてきましたが、2020年初頭に株主から「株式譲渡を進めたい」という打診がありました。
私自身も任期満了に伴い代表取締役を退任し独立する予定で株主と話をしていたのですが、今回のディールまでは延長して欲しいとも打診いただいたので、継続して取り組ませていただきました。
譲受先の検討から始めたのですが、コロナ禍の影響もあり投資凍結している会社もありました。
ジーニーのことを知った6月頃は、丁度ロングリストの作成・見直しをしていた時期でした。
ジーニー工藤社長の「企業理念」に共感
当社はジーニー様側の仲介のみを担当させていただきましたが、今回のきっかけとなったのは、当社のM&Aセミナーでしたね。
川邉氏:
ウィルゲートさんのM&Aセミナーに参加した6月は、先程お話したとおり譲渡先を検討していた時期。
セミナーを聴講し、その時登壇された工藤さんのお話に、大きく心動かされたのを今も覚えています。
どのような点でしょうか?
「BSTと創業の思いがとても似ている」ということです。
もちろん以前からジーニーのことは存じ上げていましたが、アドテクの会社、という以上のイメージは抱いていませんでした。
工藤さんのお話を聞いて驚いたのが、ジーニーの「テクノロジーで新しい価値を創造する」というミッション、そして「世界的なテクノロジー企業になる」という創業の志でした。
というのもBSTも「日本から世界的なテクノロジー企業をつくろう」という思いで設立した会社です。
私は途中からBSTに加わったのですが、創業時からグローバル展開したいという思いがあったことはよく聞いていました。今回のM&Aで、事業シナジーはもちろんのこと、こういった企業理念や方針、文化の一致は重要だと考えていました。
だからこそ工藤さんのお話を聞いて、率直に「ジーニーさん、いいな…」と思いました。
マーケティング領域のサービス提供を1社で完結
続いては工藤社長にお聞きします。今回のM&Aは11億円という大きなディールサイズにも関わらず、当社からご相談差し上げて3カ月間でご成約という、スピーディーな株式譲受となりました。この背景を教えてください。
工藤氏:
一つはSBI FinTech Solutions 様から、株式譲受の決断をする上で期限をいただいていたこと。
もう一つが今期の期初時点で、今回のような規模感の買収を当社で計画していた、ということがあります。
先程川邉さんから仰っていただいたとおり、当社は「日本から世界的なテクノロジー企業をつくる」という方針を掲げています。
特にアド・プラットフォームやマーケティングオートメーション、チャットツールといったマーケティング領域のプロダクトを有し、世界に向けてあらゆるマーケティングソフトウェアを、当社だけで包括的に提供できることを目指しています。
2017年の上場前から買収や投資は10社以上、積極的に行っています。投資に留まらない、PMI(経営統合)を伴うものも6社目となります。
そういった意味で、BSTは買収の計画、「マーケティングソフトウェアの世界展開」という方針共に合致する企業でした。
お二人にお聞きしたいのですが、今回、譲渡・譲受を決断する決め手になったのは何でしょうか?
川邉氏:
私がBSTの社長になって設定した経営課題は「当時赤字だった会社をSaaS事業で黒字化すること。そして収益拡大していくことができる組織体制をつくること」 でした。
自社でプロダクト開発を行い、既にマーケティング領域で顧客基盤を築いており、上場企業として組織運営されているジーニーとなら、BSTの課題を共に解決できる。さらに検索に関するデータを活かした、新たなビジネスが展開できるのでは…そう考えました。
工藤氏:
私も川邉さんと同じく、当社の営業、マーケティング、エンジニアリングなど、BSTが事業を成長させていく上で必要な要素をすべて提供できる、と感じました。
川邉さんと直接お話したときに、「一緒になれば、新たな事業展開もありえそうですね」と前向きなお話をいただけたのも、印象に残っています。
工藤社長は学生時代、検索エンジンの研究をされていたとお聞きしています。こういったご経歴も決め手になったのでしょうか?
工藤氏:
決め手の一つと言えるかもしれません。
というのも、PMIを伴うような買収の場合は、買い取った事業を「好き」でないといけないからです。経営体制を統合していくなかで、その会社の事業にかかりっきりになるわけですから、「好きである」というのは重要な要素です。
学生時代、研究室では「検索エンジンはIT技術のかたまりだ」と聞いていました。技術のかたまりである事業に関われるだけで、私としては楽しいと思えますね。
工藤社長自ら全26人の社員と面談
株式譲渡を発表されたのが2020年10月。社内外の反応はいかがでしたか?
川邉氏:
お客様には、とてもポジティブに受け止めていただけました。ジーニーのグループに入ることで、プロダクトがよりパワフルになり対応領域が広がることで、メリットがあるのでは、というリアクションが多かったです。
社内では、 株主から全社員に向けて今回の株式譲渡について伝えてもらった後、私の退任と後任はジーニーの社長でもある工藤さんであることを報告しました。
そしてその2日後、工藤さんが26人の社員全員と面談する、ということも伝えました。
工藤氏:
面談は2、3日かけて、全員と1on1で話をしました。
BSTで働く思い、事業を成長させていく上での課題、今後の不安などを聞き、それを事業計画に落とし込んでいく。
PMIを進める上で欠かせない工程ですが、今回は一段と良い手応えがありました。
というのも、多くの社員、特にエンジニアが率直にプロダクトの課題を話してくれたからです。社員の「会社を良くしていきたい」という強い思いを感じました。
事業成長における課題以外にも、職場環境や働き方に関する要望も把握できました。
例えば「机をもっと広くしてデュアルモニターにしたい」といったことや「フレックス勤務にしたい」という意見。
当社もエンジニアが多数在籍している会社なので、そういった要望にも柔軟に対応できました。
川邉氏:
工藤さんとの面談後、何人かの社員に話を聞いたところ、不安はもちろんあるものの、期待感やワクワク感が勝っている、という印象でした。
ジーニーとともに海外展開していくという工藤さんのお話にも、刺激を受けた社員は多かったようです。
私自身、工藤さんにバトンタッチできて良かったという思いでした。工藤さん自らPMIの責任者となり推進してくれるので、安心感も強かったですね。
事業シナジーは後から付いてくる
今回ウィルゲートがM&Aのお手伝いをさせていただくなかで、「ここが良かった」という点はありますか?
川邉氏:
あの時セミナーに参加した後、ウィルゲート吉岡さんからジーニーを紹介していただかなければ今回の譲渡も実現しなかったでしょう。そういった意味でとても感謝しています。
また、私が最初に株式譲渡を経験した2014年の時と現在を比べると、M&Aに関して相談できる相手がかなり増えたと感じています。
特にウィルゲートさんはIT・Web領域に特化しているので、相談相手として心強いですね。
工藤氏:
柔軟性と業界理解が素晴らしいと感じます。BST以外にも、当社にマッチした譲渡案件の情報をいただいており、とても助かっています。
最後にM&Aを終えられた率直な感想を教えてください。
川邉氏:
今回の株式譲渡を通じて強く感じたのは、会社のカルチャー、思い、ビジョンが一致することが何よりも重要だということ。
事業シナジーはもちろんあったほうがいいのですが、企業文化や理念が一致していれば、十分後から付いてくるものだと思います。
事業譲渡を検討している方へは、ぜひ譲渡先の企業文化・理念にも着目してほしいですね。
工藤氏:
企業文化が似ているせいか、今回のPMIはかつてないくらいスムーズに進んでいます。
現在、当社のSSP事業は年間売上100億円規模となっています。ここまで成長させていく上で、あらゆる経験を乗り越えてきたので、BSTが抱える課題も順調に解消していけるでしょう。
今回のM&Aによって当社のマーケティングテクノロジーがさらに強固になり、「世界を獲れる」という実感が深まりました。