事業承継と事業継承の違いとは?種類や手順、よくある失敗を解説

この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

M&Aをご検討中の皆さん、事業承継と事業継承の違いをご存知ですか。どちらも似たような名称ですが、実際に行う手続きや内容は異なるものになります。それぞれの特徴や違いを理解しておくことでM&Aの失敗を防げるでしょう。

今回は、M&Aにおける事業承継と事業継承の違いと、それぞれの場合で行う手続きについて解説します。

中小企業の現状について

中小企業の現状について

日本全体で高齢化が進んでおり、中小企業オーナーの多くも高齢になり事業の継続が難しくなりつつあります。そのため、後継者がいない、あるいはM&A等の選択肢があることを知らない経営者の中には廃業を選ぶ人も多くいます。これは日本全体で見ても、国力の衰え、大きな機会損失につながってしまうでしょう。

2020年に中小企業庁が行った調べによると、日本全体の中小企業において、今後5年以内に経営者が引退予定の企業のうち、約半分は後継者が決まっていません。

参考:中小M&Aガイドライン~第三者への円滑な事業引き継ぎに向けて~|中小企業庁

このように中小企業の後継者不足問題は、社会的な関心ごとになりつつあります。そのため、事業承継や事業継承に対するニーズは年々高まってきています。会社の今後について考える際に、誰に後を任せるのか、どのような方法で何を引き継がせるのかは非常に重要です。

事業承継とは

事業承継とは

事業承継とは、現在の経営者が会社の経営を後継者に引き継ぐことを指します。事業承継を行う際には、会社の経営権や不動産といった資産一式はもちろん、経営者の思想や経営方針、会社のカルチャーなども引き継ぐことになります。そのため、経営者は誰を後継者に選ぶか慎重に吟味する必要があるでしょう。

事業承継のメリットとデメリット

事業承継を行う際には、メリットとデメリットの両方を知ったうえで検討する必要があります。具体的には以下のものが存在するでしょう。

事業承継のメリットとは

事業承継のメリットには以下のようなものがあります。

雇用を守れる

誰かに事業を承継することで廃業する必要がなくなり、雇用を守れます。企業の規模にもよりますが、どの中小企業にも従業員がいます。若手の従業員であれば転職も可能かもしれませんが、年配の方であれば勤め先が廃業してしまうと再就職が難しい場合もあります。

場合によっては、勤め先の廃業によって生活が成り立たなくなってしまう人もいるかもしれません。そのため、承継によって雇用を守れることは大きなメリットといえるでしょう。

経営者の老後資金を捻出できる

承継者に会社の引き継ぎを行う際には、会社の各種資産の買取が発生します。そのため、高齢の経営者の老後資金を事業承継によって捻出できます。

経営者はサラリーマンと違って、廃業時に自動的に退職金が出ることはありません。経営者の中には稼いだお金を自社の成長の投資にまわして、個人のお金があまりない場合もあります。そういった際も、事業承継を行うことでまとまった額のキャッシュの入手が可能となります。ただ、企業によって売却価格や保有資産額は異なるため注意しましょう。

事業承継のデメリットとは

事業承継のデメリットは、主に以下の3つのものがあります。

後継者の発見と育成が困難である

事業を承継するにあたって適任者を発見するのは困難なうえ、時間がかかることが多いでしょう。数年以内の引退を予定している場合は、タイムリミットが存在するのでなおさら困難になります。

また、中小企業オーナーの子どもや親族が会社を継ぐ意思がない場合は、従業員の昇格や外部人材のスカウトが必要になります。いずれの場合も、経営者として機能できるようになるには、時間を要します。経営者が高齢の場合は、長期にわたっての育成が難しいでしょう。

会社の負債や自社株の買取が難しい場合がある

会社を承継する際、会社に負債がある場合は買取が必要になります。しかし、あまりにも多額の負債を会社が抱えていると買取が難しくなります。

また、承継時には自社株の買取を行う必要がありますが、一定以上の資金力がないと不可能です。これらの理由で事業承継を行えず、廃業を選択する経営者も数多く存在します。

相続人から慰留分を請求されるリスクがある

経営者が親族のうちの誰かに事業を承継させる場合には、会社や個人のほぼ全部の相続財産もあわせて引き継がせることになります。そのため、親族の誰かに事業用資産や株式に関する慰留分を請求されるリスクがあります。

慰留分とは、正当な権利を保有する相続人に対して保障されている一定の相続遺産のことを指します。この際、被相続人の意思には関係なく慰留分は発生するので注意しましょう。

和解できない場合は、長期にわたる裁判になるケースも数多く存在するので、精神的にも疲弊してしまうでしょう。そのため、相続リスクに関しても考慮しておく必要があります。

事業継承とは

事業継承とは

事業継承とは、先代の経営者の義務や財産、権利といったものを引き継ぐことを指します。継承の対象となるものとして、先代経営者が作り出した経済的価値や経営に関する資格があげられます。

事業承継と事業継承の違い

事業承継と事業継承の違い

「事業承継」は先代経営者の経営理念や思想といった抽象的なものを引き継ぐ際に使用されます。一方で、「事業継承」は会社の株式や動産といったより具体的なものを引き継ぐ際に用いられます。

ただ、法律上では「事業承継」の方が正しい用語として認識されています。日常会話ではどちらも同様のシチュエーションで使用されることが多いので、特に注意して使い分ける必要はないでしょう。

事業承継の種類

事業承継の種類

事業承継には複数の種類が存在します。それぞれの内容と適したシチュエーション、さらにメリットとデメリットを確認していきましょう。

親族内事業承継

親族内事業承継とはオーナー経営者が自分の子ども、あるいは親族のうちの誰かに事業を引き継ぐことを指します。

かつて、事業承継では親族内事業承継、特に子どもへの引き継ぎが多くありました。しかし、現在では子ども世代の働き方や住む場所の価値観が変わり、親の事業の引き継ぎを望まないケースも増えてきています。このことも、廃業する中小企業が増加している要因の1つといえるでしょう。

親族内事業承継には、生前贈与と相続の2つのパターンが存在します。

生前贈与を行う場合

事業承継における生前贈与とは、事業承継者が現在の経営者の許可を得たうえで、会社株式や事業用資産を無償で引き継ぐことを指します。(民法549条)

生前贈与のメリット

生前贈与を行う際には経営者がまだ生きており、経営者の意思により行われるので相続関連の問題が発生しにくくなります。また、生前贈与の場合は会社の株式や資産を無償で引き継げるので、承継人に買い取る財力がなくても経営権と会社を譲渡できます。

さらに、経営者の身内が会社の経営を引き継ぐことで、既存従業員のサポートも得られやすくなります。やはり従業員側としても外部の全く知らない人物よりも、経営者と血縁関係のある人の下で働きたいと感じる人が多いでしょう。

生前贈与のデメリット

生前贈与を行う際には会社の資産を無償で引き継げますが、承継時には贈与税等の支払いが発生します。承継するものの価値が高いほど税金の額も大きくなるので、注意しましょう。

また、贈与の条件によっては慰留分の請求を起こされる可能性もあります。血縁関係にあっても、金銭トラブルが原因で縁が切れるケースは少なくありません。さらに生前贈与を複数回行ってしまうと、脱税をしているのではないかと国税庁に嫌疑をかけられてしまう可能性があります。

相続時に行う場合

経営者が亡くなった後に、親族の誰かが事業を承継する場合もあります。経営者の死亡が予期せぬタイミングで起きたなどの理由で、相続対策が何もなされていない場合は、相続人全員に財産が均等割されることになります。承継者以外にも財産が分配されるため、スムーズに事業を引き継げなくなってしまうでしょう。

以上の理由から、経営者は存命中に自身の後継者が事業用の財産を相続することを遺言書などで定めておく必要があります。また、他の相続人に対しても慰留分を損害しない程度の資産を分配する旨を準備しておくことで、相続争いのリスクを減らせるでしょう。

相続のメリット

有効な遺言書を残しておくことで、確実に相続人に事業用の資産を引き継がせることができます。また、遺言書に財産分配方法を記しておくことで相続人の負担が減るでしょう。

相続のデメリット

1人の相続人が価値の高い事業用資産を引き継ぐ場合、相続人の間で争いが起きる可能性があります。場合によっては裁判で争うことになり、金銭的、精神的な負担が大きくなるリスクがあります。

また、遺言書で承継人に特定の資産を継承することを記していても遺言執行人による手続きが複雑なため、後継者が実際に資産を承継するまでに時間がかかってしまうでしょう。

信託による承継

信託による事業承継を行う際は、財産の所有者である現在の経営者が、信託行為によって将来の事業承継者に財産を託すことになります。財産を託された受託者は、あらかじめ決められている信託目的に則って、財産の処分や管理を行います。信託の目的は、信託によって発生した利益を委託者が選んだ受益者に与えることです。

このスキームを利用することで、経営者が経営に関する議決権を保有したまま、事業承継者に配当を受ける権利を与える期間の設定が可能になります。

信託のメリット

信託による承継を行うことで、より柔軟で自分の希望に沿った事業承継を行えます。次の後継者はもちろん、その次の後継者まで設定可能であるので、より確実に経営者の意思を反映さることができます。

信託のデメリット

受託者は、善管注意義務や信託事務遂行義務などの多くの法的な義務を負う必要があります。そのため、積極的に受託者の役目を引き受けたがる人はおらず、受託者の発見が困難なケースが多いでしょう。

事業承継において、信託を利用したスキームはあまり多くの人に知られていません。そのため、事業関係者に反対される可能性もあるでしょう。

M&Aによる事業承継

M&Aとは企業の合併と買収のことを指します。一般的にM&Aは大企業間で行われるイメージがありますが、最近では中小企業間のM&Aも盛んに行われるようになってきています。

M&Aのメリット

M&Aによる事業承継を行う場合は、外部から候補者を広く募ることが可能です。そのため、親族内に事業承継を希望している者がいない場合などによく使用される方法です。

M&Aのデメリット

M&Aによる事業承継を行う際には、適任人材の選定や税務、会計関係の手続きに時間がかかる場合が多いです。また、外部の人間に事業を引き継がせることに既存の従業員が反発する可能性もあります。これらのリスクも考慮しながら余裕を持ったスケジュールを立てて、スムーズに事業承継を行えるように注意する必要があるでしょう。

自社株式売買による事業承継

将来的に事業を引き継ぐ承継人に自社の株式や事業用資産を買い取らせる方法で、事業承継を行うケースも存在します。

自社株式売買のメリット

自社株式売買のメリットは、経営者が存命の間に後継者や事業に関連する資産の承継を行えることです。経営者が亡くなった際も相続争いが起こりにくくなるため、事業承継者がスムーズに事業を継続できます。

さらに、経営者が生きている間に行われた自社株売買は後から覆される可能性が低いので、法的な不安要素を最小限に抑えられます。

自社株式売買のデメリット

自社株を承継者に売却する際に、あまりにも安い値段で引き継がせると生前贈与として扱われてしまいます。そのため、自社株式や事業用資産の時価評価は慎重に決定する必要があるでしょう。

これに加えて、承継者は株式や資産を買い取るための資金を準備する必要があります。十分な取得資金を準備できる承継者がいないことが原因で、廃業を選ぶ経営者もいます。

事業承継で引き継がれるもの

事業承継を行う際、経営者はどのようなものを承継者に引き継ぐことになるのでしょうか。具体的な内容を確認しましょう。

経営の承継

まず、承継者は経営に関する権利を引き継ぎます。

経営権

承継者は前任の経営者から会社を経営する権利、経営権を引き継ぎます。経営権を引き継ぐことで今後の会社の方針やビジネス展開の方法などを決定できます。

後継者選定・育成

自分が経営している会社を末長く発展させていくには、適切な後継者を選ぶ必要があります。多くの場合、後継者は既存の従業員か親族の誰かから選ばれます。

しかし、会社の経営は簡単ではありません。豊富な知識や経験をもとに、さまざまな困難な判断を下す必要があるでしょう。そういった後継者に引き継ぐためには、適切な後継者を選ぶ方法以外に、後継者を育てるという選択肢も存在します。ただ、後継者の育成には時間がかかるので長期的な視点や計画が必要になるでしょう。

資産の承継

承継者は会社を引き継ぐ際に、会社が保有する資産も承継することになります。どのような資産が引き継ぎの対象になるのか確認しましょう。

財産権

会社の財産に関する権利、財産権も引き継ぎの対象になります。この場合の「財産」に当たるのは、主に会社の株式と事業用資産の2つです。

株式

承継者が経営権を引き継いでも、前任者が会社の株式を全て保有している状態だと正式に事業承継が行われたとはいえないでしょう。なぜなら経営権は承継者が持っていたとしても、実質的な会社のオーナーは前任者のままだからです。

また、自社株式が高額の場合、オーナー経営者が保有している株式に莫大な相続金がかかってくるため、承継者が非常に重い税負担を課せられる、という問題も発生します。

さらに、オーナー経営者が亡くなった際に、オーナー経営者が保有していた自社株式が相続により多数の相続人に分散されてしまうケースもあります。こうなると、承継者本人が会社の経営を行うのに必要な分の株式を取得できない可能性が出てくるので注意が必要です。

事業用資産

事業用資産にはさまざまなものが含まれます、例えば、会社の建物や工場といった不動産、社用車などの動産が高額なものが例となります。特に不動産は規模が大きいものほど価値が高い傾向にあります。

しかし、不動産は株式と違って相続時の分割が非常に困難であるため、相続争いの元になりやすいです。また、均等に相続人の間で分け合うためには不動産を売却する必要がありますが、事業用不動産を売却してしまうと事業の存続が難しくなってしまいます。

そのため、経営者は自分が健康で適切な判断を行えるうちに承継者を決めて、これらの事業用資産の承継を行っておくことが好ましいです。経営者が存命のうちに事業用資産を後継者に引き継いでおくことで、将来的に相続問題も発生しにくくなるでしょう。

資金

会社が保有している資金も引き継ぎの対象になります。法人名義の口座内のキャッシュや運転資金がこれにあたります。ただ、注意点として資金は上記のような正の財産のみでなく、負の財産も同時に引き継ぐことが挙げられます。例えば、借入金が負の資産の一例です。

承継者は正の資金だけでなく、負の資金に関しても承継前にしっかりと把握しておく必要があるでしょう。資金の割に、借入金が多すぎる場合は注意が必要です。事業の将来性や安定性も加味したうえで、健全な経営が行われてきたかチェックすることが重要になります。

許認可

事業を行う際には、各種許認可が必要になる場合が多いです。例えば、飲食業や建設業、不動産業、運輸業などがこれにあたります。事業承継を行う際には、事業の経営権を引き継ぐのでそれに伴って、事業の運営に必要な許認可もあわせて承継することになります。

許認可には具体的に4つのものが存在します。それぞれの名称と中身を確認しましょう。

許可や免許

許可とは免許とほぼ同義で使用されるもので、事業を合法的に営むのに必ず必要なものとなります。具体的には以下のようなものが「許可」の例として挙げられます。

  • 建設業許可
  • 飲食店営業許可
  • 宅建業免許

いずれも人の生活や命に密接に関わる事業です。そのため誰でも事業を行えるのではなく、一定の要件を満たしていて、事業を適切に行えると判断された会社のみ事業の運営を許可されます。

承継時には、これらの許可の引き継ぎを確実に行えるようにしましょう。万が一、事業承継時に許可を引き継げないと事業の運営ができなくなってしまいます。許可を得ていないまま事業を継続するのは違法行為になるからです。

また、許可を得るための条件が揃っていたとしても、判断を下す監督官庁の考え方によっては許可が下りない場合もあります。そのため、許可は100%保証されているわけではないことを認識し、専門家のサポートを受けながら入念に準備、申請することが重要です。

認可

会社が認可を得ることで、その事業を行う権限を得られます。代表的な認可の例として、「医療法人設立認可」が挙げられるでしょう。

認可を得た段階で、会社は法律上の行為を完成させたと認識されるので、認可を得ずに事業を行っても罰則は科されません。ここが許可との一番の違いでしょう。ただし、認可を得ずに行った行為は無効になるので注意が必要です。

認証

認証を得ることで、当該会社は公の機関からその存在を認めてもらえます。具体的な「認証」として以下のものが存在します。

  • NPO法人設立認証
  • 定款認証

認可と異なるのは、認証を得ても権限が与えられるわけではなく、存在を公式に認証されるのみ、という点です。

登録

登録をすることで、会社は行政庁が保有する帳簿へ登録されます。登録に必要なのは書類の準備のみなので、難易度は低いです。登録の例としては、以下のものがあります。

  • 電気工事業登録
  • 医療機器製造業登録

登録は全ての会社が必ず行わなければいけないものではありませんが、登録を行っておくことで顧客からの信用度が高まる場合もあります。それぞれの業種に応じて、登録が必要かどうかを判断してください。

知的財産の承継

知的財産とは、会社特有のブランド、保有しているノウハウ、従業員等の人的資産、ビジネスや顧客ネットワークといったもののことを指します。

資産の承継では数字化されているなど、実際に現物を確認できるものを引き継ぐので、比較的理解しやすいでしょう。一方で、知的財産には、先代経営者の事業に対する想いや、従業員が保有している特定の専門的なスキルのような目には見えないものが多く含まれます。そのため、知的財産を承継者へ引き継ぐ際には、経営者と承継者の間で入念にコミュニケーションを取ることが重要になるでしょう。

具体的な知的財産の中身としては、以下のものが存在します。それぞれの役割と内容を確認しましょう。

経営理念

経営理念とは先代経営者が築き上げてきた会社の経営に関わる信念であり、会社の存在意義をあらわすものです。経営理念によって、会社の経営判断が下されるため、事業においても最も重要なものの1つです。

経営理念は、特に中小企業で色濃く存在します。中小企業は従業員数が大企業より少ないため、オーナー社長の判断で会社が動くからです。

そのため、適切な方法で事業承継者に経営理念を引き継ぐ必要があります。具体的な引き継ぎ方法は以下の通りです。

経営理念の引き継ぎステップ

まずは承継者に、会社の企業理念が生まれた経緯を伝えます。会社を創業することになったきっかけや想い、現在に至るまでの成功や失敗経験を伝えることで、承継者も会社のストーリーやこれから進むべき道について理解できるようになります。

次に経営理念がどの程度、社内で認知されているかを確認します。従業員があまり多くない場合は、従業員が社長と関わる機会が増えるので経営理念の認知度が高くなりますが、従業員が多い場合だと経営理念をあまり知らない従業員も一定数いるかもしれません。経営理念の認知度が低い場合は、事業承継者が何らかの対策を講じる必要が出てくるでしょう。

最後に、現在の経営者が事業承継者に経営理念を繰り返し丁寧に伝えることが大事です。これには時間を要するので、事業承継者の教育の一環として行い、また、経営理念に共感しそれを体現できる事業承継を選ぶことが重要になるでしょう。

特許

特許権や実施権を承継させる場合は、特許法によって定められている各種規律について注意する必要があります。特に、特許権や専用実施権を事業承継者に移転させるには特許庁への登録が必要になります。

さらに、専用実施権や通常実施権を移転させる際に、ライセンサーの許可を要する場合も存在します。一方で、通常実施権の特許庁への登録は必要ありません。このように承継させるものによって必要な手続きが変わってくるので、各種法律を確認して適切な対応を取るようにしましょう。

ノウハウ

ノウハウとは事業をスムーズに行うためのコツのようなものです。事業は教科書通りに行えばいいというものではなく、それぞれの会社や業界によって通用する常識や方法が異なります。

こういった実経験にもとづいた知識を持っておくことが、会社のマネジメントやプロジェクトの進行を行うにあたって重要になります。

顧客情報

江戸時代、商人の家が火事になった場合、商人が持ち出そうとするのは金品ではなく顧客リストだったそうです。なぜなら顧客リストさえあれば、金銭や商品が失われてしまっても、もう一度それらを手に入れられるからです。

現代においても、顧客情報の重要性は依然として高いです。どのようなグループに属している消費者が自社の製品やサービスを利用しているのかを知ることは、商品開発やマーケティングにおいて必ず必要な情報になります。

さらに特に中小企業の場合は、お得意様の情報の引き継ぎも重要です。大事な取引先には事業承継前に、経営者と事業承継者が共に挨拶をしにいく、といった配慮が必要になるでしょう。

人脈

顧客情報と同様に、ビジネスにおける人脈の引き継ぎも必須となります。同業他社はライバルであると同時に、さまざまな意見交換をして共に高めあえる存在です。異業種でも人脈があるおかげで、事業の幅を広げられるきっかけになることがあります。

中小企業の場合は、人脈が経営者に属人化しやすいです。顧客の引き継ぎ時と同様に、事前の挨拶回りなどを行って、スムーズかつ確実な引き継ぎを行ってください。

従業員

M&Aに伴う従業員の退職に関しては、特に注意が必要です。仮にM&Aの内容や事業承継者に対して、従業員が反対意見を持っている場合、M&A後に大量の離職者が発生してしまう可能性があります。

現在、日本では少子高齢化が進んでおり、優秀な人材の確保がより困難になってきています。そのため、事業承継を行う際には、事業承継者にはもちろん、その会社で働いている従業員にも事前にしっかりと説明を行って、同意を得ておく必要があります。丁寧にプロセスを進めていくことで、重要な知的財産の一部である従業員を、事業承継によって失うことを防げます。

事業承継の手順・流れ

事業承継の手順・流れ

事業承継を成功させるためには、必要なステップを1つずつ丁寧に進めていく必要があります。抜けや不備がないように注意しながら、以下の手順で手続きを行いましょう。

会社の現状を把握する

事業承継を行う前に、まずは会社の各種状況を確認する必要があります。具体的には以下の状況を把握しましょう。

  • 各種資産
  • 株式保有状況
  • 株式評価額

これらの数値や状況を確認することで、現時点における会社の経営状況や課題がわかります。例えば、収入と保有資産に対して借入金が極端に多い場合などは注意が必要です。

また、財務諸表の確認は必須です。ただ、株式状況を把握するには専門的な知識が必要な場合もあります。そういった際は、プロであるM&A仲介会社のアドバイザーに意見を求めましょう。

事業承継者の選定・育成

会社の状況を確認した後に、事業承継者の選定、あるいは育成を行います。外部から承継者を招く場合は引き継ぎのみで経営者として育成する必要ありませんが、内部の人間に承継させる際には経営者として機能できるようになるための育成が必要です。

外部から人材を募集する際も、内部の人材を育成する場合も一定以上の時間を要するケースがほとんどです。逆に、短期で人材の選定や育成を行ってしまうと適切な引き継ぎが行われず、会社の経営が悪化してしまいます。

いずれの方法をとるにしても妥協せず、丁寧に時間をかけて取り組むようにしてください。

経営者の年齢と経営方法の特徴について

中小企業庁が実施した「経営者の年代別に見た成長への意識」という調査によると、経営者が高齢になるほど、事業に対する投資意欲は低下し、より安全な道を選び、リスクを避ける傾向が強くなります。そのため、経営者が高齢化している場合は、下の年代の承継者に事業を引き継ぐことで、事業を拡大させられる可能性が高まります。

実際に、帝国データバンクの調査によると、経営者を交代した会社の方が、経営者が変わらないままの会社よりも経常利益率が高いことが判明しています。

参考:(株)帝国データバンク「COSMOS1 企業単独財務ファイル」、「COSMOS2 企業概要ファイル

これらの調査結果も加味したうえで事業承継者の選定、育成を行うことが重要です。

事業計画書を作成する

事業承継時には、必ず事業計画書を作成する必要があります。作成時には前述のステップで確認した会社の現状や選定した承継者の情報に基づいて、これからどのように承継、経営を行っていくのか計画してください。

ただ、初めて事業承継を行う際には具体的にどのようなポイントを事業計画書に盛り込む必要があるのか分からない経営者も多いでしょう。そういった場合は、独断で作成するのではなく、プロであるM&Aアドバイザーに相談してください。

事業関係者への周知を行う

事業計画書の作成終了後、従業員や取引先といった関係者に事業承継を行うことを説明します。事前周知を行う際に注意すべきなのがタイミングです。早すぎると不信感を与えてしまうことがあり、遅すぎても事業に悪影響が出る可能性が高まります。

目安として、事業承継者の選定が終わり、事業承継を行うことが確定した段階で周知するのが好ましいです。また、周知内容にも留意する必要があります。内容が適切かどうか、必要な情報が漏れなく含まれており、不必要な情報が混ざっていないかを精査しましょう。

経営改善のための施策を講じる

会社の経営状況が悪い状態で引き継ぎを行ってしまうと、承継者が対応に苦心するだけでなく、会社の経営が傾いてしまう可能性があります。そのため、可能な限り事業承継前に経営改善のための施策を講じておくと良いでしょう。

特に財政状況の改善は重要で、不要な資産の売却等を行うことで負債額の低減に努める必要があります。キャッシュフローを見直す、支出内容を確認する、といった方法も有効になるでしょう。

計画を実行する

これらのステップが完了したら、実際に承継者に事業の引き継ぎを行います。この際、当初作成した事業計画を厳守する必要はありません。

例えば事業承継者の育成にもう少し時間が要すると判断する場合は、計画を遅らせても問題ないです。むしろ、承継後も順調にビジネスを拡大させるには、十分な育成を行ってから引き継ぎを行うほうが効率的でしょう。

同様の理由で、外部人材に事業承継を行う際も、人材選びに妥協しない方が良いです。事業計画書は事業承継を成功させるために作成したものなので、本末転倒にならないように注意しましょう。

事業承継が失敗するよくある要因

事業承継が失敗するよくある要因

事業承継は難易度が高いものなので、全ての事業承継が成功するわけではありません。事業承継を成功させるためにも、失敗要因を把握して事前に対策しましょう。

後継者を見つけられない

事業承継を行うにあたって特に重要になるのが、後継者の選定です。身内や親族、既存の従業員の中に事業承継を希望しつつ優秀な人材がいればスムーズに進められるでしょう。

しかし、実際にはこのようなケースは多くありません。そのため、いつまで経っても適任な人材が見つからないこともあります。

後継者の育成が十分でない

事業承継者を選定したあとは、一定期間、経営者になるためのトレーニングを受けさせることが多いでしょう。実際に会社の役員等になって、実務を経験させることもあります。

ただ、後継者の育成が計画通りにいかないこともあるでしょう。そうなってしまった場合、いつまで経っても事業承継を行えなくなってしまいます。育成方法の見直し、後継者の選び直しが必要になることもあります。

経営権が譲渡されない

事業承継を行ったあと、前の経営者が会長職などに就任するケースがあります。その際に、経営権が経営者に譲渡されずに、会長が保持したままになっていることもあります。

こうなってしまうと、新しい経営者は的確な指示や判断を行うことができません。さらに従業員も会長と経営者、どちらの指示に従えばいいのか分からなくなり混乱してしまいます。その結果、会社の業績が悪化したり、従業員の離職が相次いでしまったりすることもあるでしょう。

経営者が事業承継前に体調不良になってしまう

中小企業の事業承継の多くは、経営者の高齢化が原因で検討、実行されます。そのため、後継者の選定、あるいは育成中に経営者の体調が崩れてしまうこともあります。そうなってしまうと、資産の承継は行えても、事業理念等の引き継ぎは行えません。事前に計画を立てる際には、経営者の健康状態も考慮しておく必要があるでしょう。

納税資金が不十分である

後継者を子どもや親族から選ぶ場合は、事業承継時に相続税の支払いが必要になります。相続税の税率は重く、承継するものの価値が高いほど支払う税金の額が大きくなります。

そのため、親族内で事業承継を行う場合は、事業承継時にどれだけの額の税金を納める必要があるのかを確認したうえで、必要額を準備しなければなりません。納税は必ず行わなければいけないものなので、確実に十分な額を用意できるように計画しましょう。

社内分裂が起きる

別々の会社に属していた社員が急に協調して業務にあたれるとは限りません。むしろ、何らかの反発、軋轢が生じる可能性は高いでしょう。仕事の進め方や資料作成の方法など、さまざまなものが異なるので、お互いにストレスが溜まってしまいます。

ゆっくりと事業を統合させることも重要ですが、経営陣による従業員への事前周知の徹底、合併後のサポートが必要です。

相談者が不在

事業承継は非常に複雑なプロセスを経て行われるため、プロのサポートが必要になります。以前に事業承継の経験がない場合は、なおさらでしょう。上記以外にも事業承継の失敗要因は数多く存在します。スムーズにかつ確実に事業承継を成功させるためにも、必ずプロのサポートを受けるようにしましょう。

相続争いが発生する

前述したように、事業承継時には相続争いが発生しやすいです。会社の保有資産額が大きいほど、相続人の数が多いほどトラブルにつながりやすくなります。

相続争いが激化してしまうと裁判になることもあり、時間もお金も必要になってしまいます。そうなると、ただでさえ困難な事業承継の難易度がさらに高くなってしまいます。また、血縁関係のある者と争い、縁が切れてしまうのは大きなストレスになってしまいます。

特に株式の分散には注意すべきでしょう。相続時に株式が分散されてしまい、新しい経営者の手元に十分な数の株が残らなくなると経営を行っていくのが困難になります。遺言書で株式の配分方法を決めておく、経営者が存命中に事業承継を行う、といった対策が必要です。

事業承継後の経営悪化

後継者の育成が十分になされていない状態で事業承継を行った場合、新しい経営者が従業員からの支持を得られなかった場合、新しい経営者が事業方針を急に大きく変更した場合などに、経営が悪化することがあります。

事業承継を行えても、引き継ぎ後に経営が悪化してしまっては意味がないです。経営悪化の原因はさまざまですが、事業承継自体をゴールとするのではなく、事業承継後のことまで考慮して、引き継ぎを進めていく必要があります。

事業承継を成功させるポイント

事業承継を成功させるポイント

事業承継を成功させるにあたって、必ず押さえておくべきポイントが複数存在します。以下のポイントをご確認ください。

余裕のある計画を立てる

事業承継を行うにあたって、それぞれのステップに多くの時間が必要です。前述したような経営者の健康状態の悪化、死亡リスクも存在します。後継者の育成や選定に予定以上に時間がかかることもあるでしょう。

そのため、事業承継を行う際はできるだけ早くに着手し、余裕のある計画を立てて実行する必要があります。計画を立てる際には、さまざまなトラブルが発生することを見込んで、スケジュールを立ててください。特に後継者の育成や選定は妥協せずにじっくりと時間をかけて行うべきものなので、経営者が健康であるときから始めておきましょう。

会社にあった承継方法を選択する

全ての会社に適した承継方法は存在しません。自分の会社の状況や自身のニーズに合った承継方法を選択するようにしてください。

例えば、経営者本人は自分の子どもに会社を継いで欲しいと考えていても、子どもは別の道を歩みたいと考えている場合もあるでしょう。そういった場合、無理に子どもに事業を承継しようとしても、育成が進まず他の後継者の選定も行えません。そんな状態で実際に引き継ぎが行われてしまうと、会社の業績は悪化し、従業員や取引先、お客様にも悪影響を及ぼしてしまうでしょう。

承継方法を選ぶときは、最終的な判断を下すのは自分でも、従業員やアドバイザーの意見も参考にすることで、より事業承継の成功率が高くなります。

早すぎるタイミングで従業員に周知しない

経営者が変わるということは、従業員にとっても大きなニュースです。これからどのような変化が起きるのか、不安に感じる従業員も一定数いるでしょう。

そのため、早すぎるタイミングで従業員に事業承継のことを周知しないことが重要です。もちろん、周知が遅すぎても混乱が生じてしまうので、後継者が決定された段階などで共有すると良いでしょう。

注意点としては、事前に従業員へ情報が漏れてしまわないようにすることが挙げられます。出所がわからない噂が社内に広がってしまうと、余計なストレスを従業員にかけるほか、経営層に対する不信感が増してしまいます。事業承継関連の書類やメールの取り扱いには特に注意してください。

事業承継後も先任経営者のサポートが必要

事業承継を行ったあとも、しばらくは先任経営者のサポートが必要になるでしょう。事業の引き継ぎを行ったものの、分からないこと、うまくいかないことが多々発生すると予想されます。

そんなとき、先任経営者がそばで的確なアドバイスを与えることで、より会社の経営がうまくできるようになるでしょう。そのため、事業承継後すぐにリタイアできるわけではない、ということを理解しておく必要があります。

注意点は、先任経営者はあくまでアドバイスしたり、サポートしたりする存在である、ということです。事業承継後も先任経営者が会社でさまざまな指示を出しながら仕事をしていると、後継者が育たないばかりか、社内外に混乱を起こす可能性があります。自分の役目と立場をしっかりと意識して行動することが重要になるでしょう。

アドバイザーのサポートを受ける

事業承継は一般的に難易度が高く、失敗することも多いです。また、事業承継を検討中の方の多くは過去に事業承継の経験がないでしょう。そのため、成功率を上げるためにはM&Aアドバイザーのサポートが必要になります。

アドバイザーを選ぶ際には、以下のポイントを確認しましょう。

過去実績や口コミ

M&A仲介会社の多くは自社のHPに過去実績を掲載しています。多ければ多いほど良いというものではありませんが、一定数以上の実績がある場合のほうが安心して依頼できるでしょう。

また、口コミの確認も必要です。過去に実際に利用したことがある人の経験談やインタビューを確認してみてください。ポジティブな内容のものが多ければ、信頼できるでしょう。写真や会社名が公開されているなど、具体的な経験談が確認できると尚良いです。

得意な分野

M&A仲介会社によって、得意な業界が異なる場合があります。可能であれば自社が属している分野が得意な仲介会社に依頼したほうが成功率が高くなります。過去に同分野の実績がある会社、さまざまな分野を幅広くカバーしている会社も検討すると良いでしょう。

得意な分野は公式HP上で公開されていることが多いですが、そうでない場合は面談時や問い合わせ時に確認する方法もあります。

担当者との相性

仲介会社の実績も大事ですが、担当者との相性もまた重要です。面談時に真摯に対応してくれるか、自分の求めているものを正確に把握しているかなどを確認してください。

事業承継はすぐに終わるものではないので、担当者との付き合いが長くなることが多いでしょう。信頼できかつ良好な関係を築ける相手であるかを依頼前に見極めてください。

事業承継時に利用できる支援5つ

事業承継時に利用できる支援5つ

事業承継を行う際は、さまざまな支援制度を利用できます。国側も多くの会社が廃業している現状を変えようと努力しているので、さまざまなサポートを提供しています。以下の具体的な支援内容をご確認ください。

税制について

親族内で承継を行う場合、多額の税金支払いが発生します。そのため、十分な資金力がある買い手を見つけられず廃業してしまう会社も存在します。そのため、国は事業承継をサポートするために以下の2つの制度を用意しています。

事業承継税制とは

事業承継税制は、2009年度の税制改正にて創設されました。事業承継税制を利用することで、中小企業の非上場株式の贈与や相続、事業用資産の贈与や相続に課せられる贈与税や相続税の納税を猶予できます。さらに、一定要件をクリアすれば最終的に納税が免除されるので、積極的に利用すべきでしょう。

親族内承継を行う際はもちろん、親族以外に事業承継する場合でも適用可能なので、さまざまなケースで活用できます。

経営資源集約化税制とは

経営資源集約化税制を利用することで、指定された条件をクリアした中小企業は事業承継時に購入した株式の取得金額の一部を損金算入が可能で、購入時から5年経過した時点で損金計上した金額を5年に分けて均等額を益金として算入できる制度です。

この制度を利用することで、株式購入者の金銭負担を軽くできるうえ、M&A後のリスクに備えるための準備金を積み立てられます。

融資について

事業承継時に発生した税金を納めるための資金やM&A行うための買収資金が足りない場合は、特定の融資を受けられます。経営承継円滑化法の認定を受けることで、これらの融資を日本政策金融公庫や民間金融機関の信用保証融資に申し込めます。融資を受けることで、事業承継のハードルが低くなるでしょう。

ただ、事業承継の融資を受けるには、さまざまな条件をクリアする必要があります。以下に条件の例を記載します。

  • 事業承継後に新たな事業の展開を計画している
  • 事業承継を行うための具体的な計画を立てている
  • 事業承継を行うために、安定した経営権を確保する

実際の融資可否や限度額、返済期間などは日本政策金融公庫の審査によって決定されます。融資の申し込みを行う際には、具体的な条件などを確認すると良いでしょう。

経営者保証の解除について

現状、事業承継を検討していて、すでに後継者がいる会社でも、経営者保証が原因で事業の承継が難しくなっているケースが多いです。経営者保証とは、中小企業が銀行などの金融機関から融資を受けるときに、経営者が個人として会社の連帯保証人になることです。企業が倒産して融資の返済が行えなくなってしまった場合は、経営者個人が保証債務の履行を求められてしまいます。

事業承継とは、会社の正しい資産も負の資産も全て受け継ぐということです。よって、借入額が多く、経営者保証までついていると後継者も事業承継を拒んでしまうでしょう。会社を継いだ後に会社が倒産したら、自分が会社の代わりに借金を返済する必要があるからです。

そこで、事業承継・引継ぎ支援センターでは経営者保証を解除するための支援を行っています。最終的な判断を行うのは金融機関ですが、会社の財務状況を確認したうえでアドバイスをしてくれるので、経営者保証が事業承継の障害になっている場合は利用してみましょう。

補助金や助成金に関して

事業承継には多くの出費が伴います。この負担を軽くするために、さまざまな補助金や助成金が準備されているので、ぜひ活用してください。

事業承継補助金

事業承継補助金とは、事業承継を行った企業が事業を引き継いだ後に行う新しい取り組みを支援するための制度です。補助金の上限額は150万円~1,200万円で、「後継者支援型」「事業再編・事業統合支援型」の2種類があります。それぞれの内容と条件を確認して、取得可能なものは積極的に活用してください。

後継者支援型

後継者支援型の補助金は、事業承継を行った後に新しい事業に取り組む後継者を補助するために存在します。条件としては、以下のものを例として紹介します。

  • 当該企業が地域経済に貢献している
  • 承継者に経営経験がある
  • 承継者が同業種に関する知識を持っている
  • 承継者が創業や承継に関する研修を受けたことがある

上記のような条件を満たしていれば、経費として150万円~500万円を上限に補助金を受け取れます。

事業再編・事業統合支援型

事業再編・事業統合支援型の補助金は、事業の再編や統合を行ったあとに、新しい事業へ取り組んだ際に支給されます。条件として、以下のものを例としてご紹介します。

  • 当該補助金の対象事業の全被承継者と承継者が、日本国内で事業を行っている中小企業や小規模企業者、個人事業主、特定非営利活動法人である
  • 承継者が現在、経営を行っている
  • 承継者が現在経営を行っていないが、経営経験や同業種に関する知識がある

上記のような条件を満たしていれば、事業用設備への投資、販路の拡大に必要な経費のうちの一部を補助金として受け取れます。この補助金を活用することで、新しい事業をより拡大できるでしょう。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金は、商業やサービス業が従業員5人以下、それ以外の業種は従業員20人以下の小規模事業者を対象にしています。

補助金の申請を行う際は、「事業支援の計画書」や「事業承継診断票」(代表者が60歳以上の場合のみ)といった資料の作成と交付を商工会議所に依頼する必要があります。作成の際に、商工会議所からアドバイスをもらえるので、ぜひ参考にしてください。

民法や会社法の特例に関して

事業承継をする際には、法律の制約が問題になることがあります。そういった場合は、以下の特例を利用するようにしましょう。

慰留分に関する民法の特例

慰留分とは、相続人が最低限の遺産を相続する権利のことです。事業承継の際には、全ての株式を後継者に引き継ごうとすると他の相続人の慰留分を侵害してしまうことがあります。このことが原因で、事業承継が進まない場合もあるでしょう。

こういったケースでは、「慰留分に関する民法の特例」を適用させることで、株式を慰留分の計算対象外にできることがあります。事前に相続人全員の同意が必要、経済産業大臣の確認や家庭裁判所の許可が必要、といった条件があるので注意しましょう。

所在不明株主に関する会社法の特例

連絡がつかなくなってしまった株主が保有している株式を後継者が取得するには、5年以上の通知不到達や配当金不受領といった状況が確認される必要があります。しかし、5年以上も時間をかけていては、事業承継に支障が出てしまうでしょう。

そこで、「所在不明株主に関する会社法の特例」を適用することで、5年を1年まで短縮できます。このように期間を短縮することで、より早く円滑に事業承継を行えるでしょう。特に、なんらかの事情でできるだけ早く事業承継を行う必要がある場合は利用すべき特例です。

この特例が適用されるには、会社の経営とスムーズな事業承継が難しいことが確認される必要があります。都道府県の認定や公告、家庭裁判所からの売却許可も必要になるので、自分が取るべき手続きを漏れなく行ってください。

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事業承継を成功させるためには豊富な会計や税務、M&Aに関する知識を有している専門家のサポートが必要になります。ウィルゲートM&Aは多くのM&Aの成功実績があるため、安心してご依頼いただけます。まずは無料でご相談ください。

事業承継と事業継承の違い まとめ

今回は事業承継と事業継承の違い、事業承継の種類や手順について解説しました。今回ご紹介した内容を参考にして、よりスムーズに事業承継を行ってください。

ただ、事業承継を単独で行うのは難易度が高く、専門家のサポートを利用するのがおすすめです。

ウィルゲートM&Aでは、9,100社を超える経営者ネットワークを活用し、ベストマッチングを提案します。Web・IT領域を中心に、幅広い業種のM&Aに対応しているのがウィルゲートM&Aの強みです。M&A成立までのサポートが手厚く、条件交渉の際にもアドバイスを受けられます。事業規模を今後さらに拡大したいと考えている方は、完全成功報酬型で着手金無料のウィルゲートM&Aに相談してみましょう。

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