中小企業の事業承継問題とは?動向や問題点、解決策を解説

この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

近年、事業承継できない経営者が増えています。特に中小企業では後継者が見つからずに廃業を選ぶことも多く、日本全体の問題にもなっています。

本記事では、事業承継に関する問題や有効な解決策について解説します。

事業承継とは

引退を考えている現在の経営者が、会社を後継者へ継がせることを事業承継といいます。事業承継の際、後継者に引き継ぐ経営資源は大きく分けて3つあります。人(経営)・資産・知的資産です。

(1)人(経営)

事業承継における「人」という経営資源は、「経営権」のことを指します。現在の経営者引退後に、トップとして会社を経営する権利を有する人を選出し、その権利を譲ります。

中小企業は、事業のノウハウや取引先との人脈などを経営者1人が担当していることが大半です。事業の運営や業績が経営者の手腕に大きく影響されるため、後継者選びは非常に重要な問題です。

交代後に円滑で順調な企業運営を行うためにも、長い時間をかけて経営者教育をする必要があります。親族内承継であれば時間をかけられますが、後述するように、現在はさまざまな理由から次第に一般的ではなくなってきています。

(2)資産

事業承継における「資産」という経営資源は、「株式・事業用資産(設備・不動産など)・資金(運転資金・借入など)」のことを指します。事業を行うために必要な資産や設備を後継者に承継することです。

資産の承継には専門的な知識を必要とするため、できるだけ早いうちに税理士などの専門家に相談しましょう。タイミングや対策によって税金負担が大きく変わることがあります。

(3)知的資産

事業承継における「知的資産」という経営資源は、「人材・技術・ノウハウ・知的財産(特許・ブランドなど)」のことを指します。無形ですが、会社の強みになっているものです。正しく引き継ぐためには、現在の経営者がまず自社の強みを理解する必要があります。そのうえで、後継者と共通認識を持ち、承継することが大切です。

中小企業の事業承継の現状と動向

「事業承継」に関するさまざまな問題に、近年中小企業や小規模事業者、個人事業主などが頭を悩ませています。後継者となる人間が見つからず、高齢になっても勇退せず経営し続けるか、もしくは廃業を選ぶ経営者が非常に増えています。

そのため、現在は経営者の高齢化が非常に進んでおり、70~80代の経営者も珍しくありません。帝国データバンクの「2017年 後継者問題に関する企業の実態調査」によれば、経営者のうち、60代は53.1%、70代は42.3%、80歳以上で34.2%が後継者不在に直面しています。

事業承継問題・後継者不在が増えている背景

事業承継を阻む大きな問題である後継者不在問題は、時代の大きな変化によって起きています。その主な背景について解説します。

価値観の変化で親族内承継がしづらくなった

中小企業の後継者は、以前は子どもをはじめとした親族が一般的でした。親族を後継者にすると社内外から受け入れられやすく、円滑な経営者交代ができます。経営者教育に時間をかけられることも大きなメリットでしょう。

ですが、親族内承継を行う経営者は年々減ってきています。経営者には、リーダーシップや判断力といった「資質」が非常に重要です。ですが、親族の中に後継者に適した素質のある人間がいるとは限りません。

また、価値観の多様化によって、「親族が家業を継ぐのは当然」という考え方も変化してきました。会社を運営するよりももっと自分に合った自由な働き方をしたいと考える子どもが増えています。親も、トラブルや「継がす不幸」を避けるために、親族から経営者を選出しないケースが多くなっています。

事業の将来性が予測できない

近年は、ビジネスにおけるトレンドの移り変わりが非常に早くなっています。そのため、事業の業績が今後どのように変化するのかを予測することが難しくなりました。

そのうえ、新型コロナウイルスなど考えもしなかった事態が起こり、社会情勢に大きな影響を及ぼしました。小規模の観光業や外食産業など、数多くの中小企業が廃業に追い込まれています。

そのため、現時点の業績が安定していても、今後の将来性や事業承継の手間を考え、自分の代で廃業しようと考える経営者が多くいます。今後何がトレンドになるか読めない時代に直面し、中小企業の廃業率はさらに上昇するでしょう。

中小企業が直面する事業承継の問題点

事業承継がなかなか進まない中小企業には、大きく分けて3点の問題があります。大半の企業が直面している問題について解説します。

適した人材がいない「後継者不足」

後継者不足は、事業承継を阻むとても大きな原因の1つです。後継者に適した人間が見つからない、あるいは育成できないため、事業を次の後継者へ引き継げないことを指します。

ワンマン経営で起こりやすい意思決定の遅さ

中小企業では、事業に関する重要な判断を経営者1人が担っていることが多く、ワンマン経営は珍しくありません。そういった場合、経営者が病気などで倒れたときに他の人間が何も決められず、困り果ててしまうことがあります。

事業承継は一般的に数年単位の準備が必要だといわれており、早くから始めるほど成功しやすくなります。希望の条件があればなおさら、業績がいいときに進めなければなりません。会社にリスクがあると、希望通りの条件で承継することが難しくなるためです。

意思決定のスピードは、事業承継の成功の大きな鍵を握っているといえます。現在の経営者に意思決定が集中している会社は、そのことを考慮して対策を立てておきましょう。

負債や個人保証も引き継ぐことへの対策不足

事業承継で引き継がれるのは、会社や知的資産といった「強み」だけではありません。負債や個人保証なども含みます。

「負債」とは、設備投資の際に抱える借金などのことです。「個人保証」は、金融機関から借り入れをしている場合、信用力を補うために経営者本人が保証人になることです。こういったリスクも引き継がれることを認識し、正しい対策を講じておく必要があります。

中小企業が直面する事業承継問題の解決策

MBIとMBOの違い

中小企業が直面している事業承継には、「親族内承継」「社内事業承継」「M&Aによる第三者承継」「廃業」という4つの解決策があります。

親族内承継

現在の経営者の子どもや親族へ事業を承継する方法です。経営者の近くにいるため、長期間かけて経営者教育でき、非常に効率的な承継が可能です。現経営者が築いた会社の企業理念やブランドなどを維持したまま引き継げることも多く、交代の際に従業員や取引先にも混乱が起きにくい方法です。

社内事業承継(従業員による承継)

社内の役員や従業員に承継する方法です。長年勤務してきた従業員へ引き継ぐケースが大半です。親族内承継同様、経営者教育をしやすいため、スムーズな引継ぎが可能です。また、社内はもちろん取引先との関係性もできあがっているため、受け入れられやすいという特徴があります。

M&Aによる第三者承継

事業譲渡や株式譲渡などのM&Aを実施して、第三者へ事業承継を行うことです。以前は、親族や社内へ事業承継できない場合には廃業する以外に方法がありませんでした。ですが、近年はM&Aによって外部へ事業を引き継ぐ中小企業が増えています。

第三者への承継は、後継者の選択肢がとても広がり、後継者不足による廃業を回避しやすくなります。また、自社商品やブランド、ノウハウ、従業員の雇用といったものをすべて継続できます。

廃業

「親族外承継」「社内事業承継」「M&Aによる第三者承継」という3つの解決策で事業承継を解決できなかった場合は、廃業することになります。経営者はそれによって、従業員を解雇し、各資産や自社商品、ブランドや取引先の人脈といったものをすべて失います。

廃業はできるだけ避けたい方法ではありますが、業績や後継者不足によって選ばざるを得ないこともあります。

事業承継できなかった場合のリスク

事業承継は大切だといわれても、差し迫っていないと理解しにくいものです。そこで、事業承継をしなかった場合のリスク3点を解説します。

多額の廃業コストを負担

廃業する場合は、多額の廃業コストを負担しなければなりません。企業の規模が大きいほど増え、額が1千万円以上かかることも珍しくありません。主なコストは下記のとおりです。

  • 各種の機械設備、在庫などの処分費用
  • 従業員への退職金
  • 物件の原状復帰
  • 登記・法手続きに関する費用

それ以外に、負債がある場合は廃業後も個人資産を売却したり、働いて返済し続けたりする必要があります。

従業員が退職せざるを得ない

廃業すると、勤務していた従業員は退職になります。年齢や地域によっては次の転職先が見つからず、非常に苦労することになります。

自社商品などがすべて失われる

廃業とは、要するに自社で開発した商品やサービス、ノウハウ、ブランドといったものがすべてなくなることです。また、当然ですがさまざまな人脈も失われるでしょう。少しでも愛着がある場合は、できるだけ早いうちから事業承継について考えておくことをおすすめします。

事業承継の種類とそれぞれのメリット・デメリット(リスク)

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事業承継の主な種類である親族内承継、社内事業承継(従業員による承継)、M&Aによる事業承継それぞれのメリット・デメリットを解説します。

親族内承継の意味とメリット・デメリット

親族内承継は、現在の経営者の親族に承継する方法です。後継者を早期に決められるため、経営者教育に時間をかけられます。また、交代の際に社内外から受け入れられやすいというメリットがあります。

デメリットは、親族の中に経営者の素質を持つ人材がいるとは限らないことです。また、働き方に対する価値観が変わり、「親族が家業を引き継ぐ」という考え方が一般的ではなくなってきたため、以前よりも減少してきています。

社内事業承継の意味とメリット・デメリット

社内事業承継(従業員による承継)は、社内の役員や従業員に承継する方法です。親族内承継に比べて候補が増えるため、後継者を見つけやすくなります。特に、長年勤務している従業員から選ぶ場合は、社内外との信頼関係が構築されているため、円滑な承継ができるでしょう。

デメリットは、個人債務保証などに関するトラブルが起きやすい点です。早いうちに専門家の力を借りる必要があります。

M&Aによる事業承継の意味とメリット・デメリット

株式譲渡や事業譲渡など、M&Aなどによって承継する方法です。親族内承継が難しくなってきたことに代わり、近年増加しています。

メリットは、後継者にふさわしい人間を多くの候補の中から探せることです。中小企業専門のM&Aマッチング会社も増え、以前よりもずっとやりやすくなった点も挙げられます。

デメリットは、条件を満たす買い手を見つけるのが比較的難しいことです。早いうちに取りかかるほど希望条件で承継できるため、まずは無料相談を利用してみることが大切です。

事業承継問題の相談先

事業承継問題直面した際の、主な相談先5カ所について解説します。

商工会議所

商工会議所は、事業承継に悩む中小企業に向けてさまざまな支援を行っています

例えば、東京商工会議所では23区内の小規模事業者に対し、事業承継のための相談拠点を設置しています。大阪府では経営指導員による訪問相談を実施しています。これらのサービスを無料で利用できることも、商工会議所の大きなメリットでしょう。

弁護士や行政書士などの士業

事業承継には、幅広く、かつ専門的な知識が必要です。特にM&Aによる事業承継は、法律や税金、各種の書類作成など、各段階で税理士や弁護士、行政書士、公認会計士、中小企業診断士といったさまざまな士業の力を借りることになります。

近年は、士業の中にも事業承継を取り扱う専門家が増えました。そのため、以前に比べてかなり相談しやすくなったことがメリットです。

デメリットは、専門分野では力になってくれますが、M&Aを総合的にサポートしてくれるところは少ない点です。すべての法律事務所がM&Aに詳しいわけではありません。また、最初から弁護士に相談すると、その後他の専門家にも依頼しなければならず、結果としてM&A全体にかかる費用が増えてしまうことがあります。

中小企業庁が設置する公的機関

中小企業庁は、全国に事業承継・引継ぎ支援センターなどを設ける、補助金・助成金を用意する、事業承継に関する税制の説明など、事業引継ぎ支援のためにさまざまなサポートを行っています。親族内承継だけではなく、M&Aによる第三者への引継ぎにも対応しており、中小企業の事業承継の問題を広くカバーしています。

事業承継・引継ぎ支援センターは中小企業庁から委託されている公的機関で、現在は全国に7カ所にあります。事業承継に関する情報提供や助言などを無料で受けられることは、できるだけ費用を抑えておきたい中小企業にとって非常に役立つでしょう。

デメリットは、M&A仲介会社のように売却候補先を探してくれるわけではない点です。もし利用を考えているのであれば、早めに申し込む必要があります。また、相談窓口のサポートはかなり基本的な内容のため、より専門的な相談先を利用しながらM&Aを進めることが望ましいでしょう。

銀行などの金融機関

銀行をはじめとした金融機関も、近年事業承継に関する支援を開始しています。

これらの金融機関に相談するメリットは、取引先として普段からさまざまな話をしている関係性ができている場合、事業承継についても相談しやすい点です。専門的なサポートに取り組んでいる金融機関も多く、適切な対応をしてくれる可能性も高いでしょう。

デメリットは、金融機関に相談しても、その後M&A仲介会社を紹介されることが大半な点です。その後案件に金融機関が関わることはないため、相談した意味があまりなく、タイムロスにもなります。

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、M&Aによる事業承継の際に買い手と売り手の間に入り、両者をサポートする専門業者です。

M&A仲介会社を利用するメリットは、M&Aの実績や経験がとても豊富な点です。独自のノウハウやネットワークを築いている業者も多く、最適なマッチング先を紹介します。必要に応じて弁護士や税理士といった士業の専門家とも連携できるため、安心して事業承継を進められます。スピーディーに事業承継を終えられる点も大きなメリットでしょう。

デメリットは、業者によって料金体系がかなり異なる点です。相談の際から手数料が発生したり、高額な成功報酬を請求されたりすることもあるため、利用前に業者ごとの料金を確認しておきましょう。

事業承継を成功させるポイント

事業承継の際に押さえておくべきポイントを解説します。親族内承継、従業員承継、第三者への承継という、事業承継の主な手法すべてに共通する重要なポイントです。

準備は早ければ早いほど成功しやすくなる

事業承継は、早めに取りかかった分だけ成功しやすくなります。誰に承継するにしても非常に時間と手間のかかる大仕事であり、準備には平均して数年ほどの時間がかかるといわれています。現時点の経営が順調であっても、2~3年後にどうなっているかはわかりません。

業績が傾いてくると、リスクを恐れて後継者がいなくなります。経営者教育のための時間も取れません。後継者探しも育成も、業績が安定していて時間の余裕があればこそなのです。

また、M&Aを行う場合も、早期であれば買い手企業を何社も比較したうえで条件のいいところを選べます。「まだ大丈夫」と後回しにせず、できることから少しずつ進めていきましょう。

選択肢は1つに絞らず、複数準備する

事業承継において、親族内に後継者候補がいると選択肢をそれ1つに絞ってしまうケースが多く見られます。ですが、何があるかわからないため、できるだけ複数の方法を準備しておいたほうが確実でしょう。

社内に後継者候補がいる場合でも、M&Aによる準備を並行しておくことは無駄になりません。会社や事業に対する理解も深まり、今後の経営にも活用できます。また、後継者がいても、廃業する場合について一通り想定しておくことをおすすめします。具体的には、従業員の再就職先を選んでおく、廃業コストの見積もりなどが挙げられます。

国や自治体による事業承継の支援策を利用する

中小企業の廃業を減らすことは、未来のために国全体が取り組んでいる課題でもあります。そのため、国や自治体はさまざまな補助金やサポート制度を設けています。

事業承継・引継ぎ補助金」には経営者交代型とM&A型などさまざまな形があります。納税猶予を受けられる「事業承継税制」や公的相談窓口などもぜひ利用しましょう。

また、事前に事業承継の現状や方法、メリット・デメリットを理解しておくために、中小企業庁が公開している「事業承継ガイドライン」を読んでおくこともおすすめします。

信頼できる専門家に相談する

事業承継には、専門的な知識が必要です。1人で進めず、税理士や弁護士、行政書士、公認会計士、中小企業診断士といった専門家に相談しましょう。近年は、以前よりも事業承継をサポートする専門家やマッチング企業などが増え、ずいぶんと進めやすくなりました。

事業承継によって引き継ぐものは、経営権から各種の資産など多岐にわたります。そのため、法律や税金などさまざまな分野の専門家の力が必要です。場合によっては、契約書や遺言状と言った書類作成も必要になります。事業承継について、各専門家がどの範囲をサポートしてくれるのかを総合的に相談できる先を見つけておくのも一案です。

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事業承継問題 まとめ

事業承継を円滑に行うための手段として、近年はM&Aを選ぶ企業が増えています。後継者問題がスムーズに解決しやすいことが大きなメリットです。

M&Aは、できるだけ早い段階から専門家の知識を借りたほうが理想の条件で成功しやすくなります。

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