株式交換の仕訳・会計処理まとめ|パターン別の処理方法を解説

逆取得の合併の仕訳
この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

株式交換は、売り手企業の株式すべてと買い手企業の株式を交換します。親子関係を作ろうとするときに用いられ、グループ化で企業体力の強化を図ろうとするものです。この際の会計の処理はそのケースごとに異なり、複雑です。

この記事では、そんな株式交換の仕訳や会計処理についてわかりやすく解説します。

株式交換とは

株式交換とは

株式交換は、売り手企業が買い手企業の完全子会社となるM&Aスキームです。具体的には売り手企業の全株式を買い手企業がすべて取得する形で行われ、買い手企業が新株を発行して売り手企業に対価として交付するため株式交換といわれます。買い手側としては資金調達が不要なことが大きなメリットとなります。

売り手企業は合併とは異なり、その法人格を失わず、完全子会社として維持されます。このスキームは、条件によっては簡易株式交換や略式株式交換という簡便な手続きで行う場合もあります。

株式交換の仕訳ルールとポイント

株式交換の仕訳ルールとポイント

株式交換では、子会社から親会社へ株式が移転し、その対価として新株などが交付されるので、企業間で資産の移動があるわけです。したがって必要に応じて会計上の処理や税務上の処理が求められます。

株式交換では親会社に会計上の仕訳が必要になります。具体的には、完全子会社となる企業の株式取得、資本金と資本剰余金の増加、の2点についての仕訳が求められます。仕訳は「企業結合に係る会計基準」と「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に準拠して行われます。

また完全子会社となる企業の株主にも、持ち株の対価を受け取るため仕訳が必要になります。この際の基準は「事業分離等に関する会計基準」と上記の適用指針が用いられます。それらに定めのない場合は「金融商品に関する会計基準」によるとされています。

以上に対して完全子会社は、自社の株主が従前の株主から親会社へと代わるだけなので、資産の移動がないため原則的に仕訳は必要ありません。しかしこの後にも述べるとおり、例外はありますので注意が必要です。

また親会社の株主も原則的には仕訳は生じません。ただしこれも例外はあり、株式交換による顕著な持ち分変動が生じて子会社の株式などがその他有価証券となる場合、時価の洗い替えが行われて交換損益を計上する場合があります。

会計上の株式交換の区分

会計上の株式交換の区分

株式交換の場合の会計上の区分は4つあります。つまり「取得」「持ち分の結合」「共同支配企業の形成」「共同支配下の取引」です。

どちらの企業が取得した側になるかが、事業規模や議決権の状況などから明らかな場合は「取得」として区分されます。しかし、それらの状況をチェックしても、交換前のいずれの企業が取得側になるかが判別できない場合は「持ち分の結合」に区分されます。

また、任意の企業を複数の独立した企業が共同で支配するような関係が成立している場合は「共同支配企業の形成」に区分されます。そして、同じ企業グループの中にある企業間で株式交換が行われた場合は「共通支配下の取引」と区分されることになります。

取得

「取得」に区分される場合は、パーチェス法が用いられます。この場合の会計処理では、完全子会社となる企業の資産や負債はすべて公正価値での評価を受けます。したがって、実際の対価である取得価額との間に差額が生じますので、これはのれんとして計上する必要があります。

持ち分の結合

「持ち分の結合」に区分される場合は、持ち分プーリング法が用いられます。この場合、完全子会社となる企業の帳簿価額で資産や負債が計上されます。株式交換がどのような区分の扱いを受けるかで、会計処理が異なってくることに注意が必要です。

「共同支配企業の形成」や「共通支配下の取引」

「共同支配企業の形成」や「共通支配下の取引」の場合は持ち分プーリング法に準じた方法が用いられます。

税務上の株式交換の区分

税務上の株式交換の区分

株式交換における税務上の区分は2つあり、「適格」と「非適格」のいずれかとなります。株式交換の当事者会社の関係性などにより区分され、いずれの区分を受けるかで税務処理は変わってきます。

1つ目の違いは、資産の評価方法です。適格株式交換と区分された場合、資産の移転は帳簿価額によって行われるととらえられ、譲渡損益は発生しません。しかし非適格株式交換と区分されれば、資産は時価で移転したととらえられ、評価替えの手間を求められますし、帳簿価額との差額は譲渡損益と見なされ課税対象となります。

2つ目は繰越欠損金の扱いです。適格株式交換と区分されれば、完全子会社で計上されている繰越欠損金はそのまま完全親会社が引き継げます。しかし非適格株式交換に区分されれば、この引継ぎは行えなくなります。繰越欠損金を引き継ぐことによって、利益は圧縮されて課税対象額を小さくできますので、その税負担の差は大きなものとなる可能性があります。

子会社で株式交換の仕訳が必要となるケース

子会社で株式交換の仕訳が必要となるケース

完全子会社となる売り手企業は基本的には会計上の仕訳は必要ないのですが、例外となるパターンが3つあります。株式交換を行って他の会社の完全子会社となろうとする場合、これらの条件に当てはまっていないかを確認しておく必要があります。

株式交換の前に自己株式を保有しているケース

株式交換を行う前に、すでに親会社となる企業の株式を子会社となる企業が保有している場合、仕訳が必要となります。なぜなら、株式交換によりこの株式も完全親会社の自己株式となるので対価が発生してしまうからです。

新株予約権を発行しているケース

子会社となる企業が新株予約権を発行している場合も仕訳が必要になります。新株予約権とは、その予約権の発行会社に対して行使することで、予定された価格でその会社の自己株式を交付してもらえるというものです。

株式交換では、買い手企業が売り手企業を完全子会社化することが目的であり、その実行後は完全子会社が発行している新株予約権は消滅します。したがってこの消滅したぶんの新株予約権について、会計上の仕訳が必要になります。

非適格株式交換に当てはまるケース

株式交換は原則的には対価として株式を用いるわけですが、現金等で対価を支払うこともできます。この場合、非適格株式交換に区分されます。そうなると、子会社となる企業の保有資産の一部が時価評価され、評価益が出れば益金として、評価損が出れば損金として会計処理されます。計算結果によっては法人税の課税対象となるわけです。

時価評価の対象となる資産は固定資産、有価証券、金融債権などに限定されますので、全資産が時価評価されて課税対象となるわけではないことにも注意が必要です。

株式交換の仕訳・会計処理方法

株式交換の仕訳・会計処理方法

株式交換では原則的には、完全親会社となる企業と、完全子会社となる企業の株主にしか資産の移動が生じないため、この2者が仕訳を要し、会計処理の対象となります。しかし、例外があることをすでに解説しました。ここでは、親会社と子会社、そしてそれぞれの株主について場合分けしながら解説していきます。

完全親会社の仕訳・会計処理方法

完全親会社は、株式交換によって対価を支払う必要があるため、当然に資産や負債の移動が生じます。したがって必ず仕訳は必要となりますが、株式交換の区分によってその実際は異なってきます。4つの区分に場合分けして解説していきます。

「取得」の場合

株式交換が「取得」と区分された場合、会計処理はパーチェス法によります。子会社の資産や負債は親会社に引き継がれ、親会社の個別財務諸表に計上されます。子会社の株式の取得原価については、株式交換が行われた日の時価をもとに取得対価を算定し、これに取得の経費を合算して算出します。

交換にあたって新株を発行するので資本金等は増加します。まず株式交換契約によって定められた金額は資本金及び資本準備金として計上します。株式交換の対価として交付された完全親会社の株式を時価で評価し、契約に定められた金額との差額がある場合はその他資本剰余金として計上されます。

「持ち分の結合」の場合

株式交換が「持ち分の結合」として区分された場合に用いられる会計処理方法は、持ち分プーリング法となります。したがって、子会社となる企業等を含むすべての当事者会社の資産や負債は適正な帳簿価額で引き継がれ、資本についても同様に承継されます。

完全親会社において増加する資本金等は、まず株式交換契約に定めた金額を資本金及び資本準備金として計上する点は「取得」の際と変わりません。完全子会社の簿価純資産額(資産と負債の簿価における差額)を基準とした契約上の金額との差額は、その他資本剰余金として計上することになります。

「共同支配企業の形成」の場合

株式交換が「共同支配企業の形成」に区分されるにはいくつかの要件があります。すなわち、対価は議決権株式のみであること、当事者企業が完全に独立した複数の企業であること、当事者企業間に共同支配となる旨を定めた契約が結ばれていること、の3つです。

この要件が成立している場合、取得企業は判別できないことになり、持ち分プーリング法に準じた方法で会計処理されます。つまり、すべての当事者企業の資産や負債は帳簿価額で引き継がれることになります。

「共通支配下の取引」の場合

株式交換が「共通支配下の取引」に区分される場合は、内部取引と見なされます。これも持ち分プーリング法に準じた方法で会計処理され、個別財務諸表においては簿価で計上され、連結時に相殺し合って消去されます。

完全子会社の仕訳・会計処理方法

完全子会社が仕訳を行う必要がないのは、株式交換の対価を株式のみで受け取った場合です。この場合は、子会社の株式が完全親会社に移転しただけで資産や負債に変化は生じないためです。逆にいえば、そうでないケースでは仕訳が必要になると考えられます。

ケースとしては主に3つが考えられます。それぞれをくわしく解説します。

自己株式を保有していた場合

完全子会社となる企業が株式交換前に完全親会社となる企業の自己株式をすでに保有していた場合、この自己株式にも対価が割り当てられて親会社に移転します。この場合、会社が取得した自己株式を処分する自己株式処分と同様に、代用株式としての交付などの処理を行います。

会計上は、株式交換で取得した完全親会社の自己株式を時価で評価し、譲渡した完全子会社の自己株式の簿価との差額を、その他資本剰余金として計上することになります。

新株予約権を発行していた場合

株式交換では、完全子会社の全株式が完全親会社に保有されるようになりまず。その目的に照らして、完全子会社が新株予約権を発行していた場合、これは当然に消滅するものと考えられます。新株予約権が消滅する以上は、会計処理が必要になります。

新株予約権の消滅では、これにかかる帳簿価額を差し引きます。差し引かれたぶんは利益として認識され課税対象となります。会計上は、新株予約権の消滅に伴い控除した額を、交換損益の益金として計上します。

非適格株式交換の場合

非適格株式交換に該当する場合、固定資産や有価証券、金融債権などの特定の資産は時価で評価しなければなりません。したがって帳簿価額との間に差額が発生する可能性があります。この差額は、会計上は評価損益として仕訳されます。

完全親会社の株主の仕訳・会計処理方法

完全親会社の株主は、株主交換においては保有している株式に移転等が生じないため当事者となりまぜん。したがって原則的には仕訳は必要ないことになります。ただし、その持ち分に顕著な変動が生じる場合、例外的に仕訳が必要になります。

たとえば、株式交換において完全子会社となる企業の株式の時価総額が非常に大きい場合、完全親会社となる企業が割り当てる株式数はそれに伴い大きくなります。すると、完全親会社の既存株主の持ち分が無視できないほどに小さくなることがあります。この場合、完全子会社の株式がその他有価証券に振り替えて帳簿記載されます。

このとき、完全子会社の株式の帳簿価額から時価総額を減じて交換損益として計上するのです。

完全子会社の株主の仕訳・会計処理方法

完全子会社の株式交換で生じた交換損益を仕訳するのには、投資の継続性が重要になります。交換対価をどのように受け取ったかが問われるので、ケースごとに見ていきます。

受け取り対価が株式のみの場合

受け取り対価が株式のみなら、完全子会社への投資は継続しているとみなされます。株式は簿価で評価され、交換損益は生じません。したがって仕訳も不要となります。

ただし完全子会社などが、株式交換によって関連会社や子会社に該当しなくなった場合は投資の継続性は認められません。たとえば、交換前に株式の過半数を保有する親会社があったとして、それとは別の会社に株式交換によって完全子会社化された場合です。このとき、前の親会社との子会社や関連会社の関係性はなくなります。

この場合は、取引の清算によって交換損益を算定し、会計処理する必要があります。

受け取り対価が金銭等のみの場合

受け取り対価が金銭等(現金、不動産、有価証券など)のみの場合、投資の継続性は認められません。したがって完全子会社との取引を清算し、交換損益を算定します。

完全親会社が取得した完全子会社の株式発行価額(簿価)と、対価として受け取った金銭等の時価の差額を計算します。この算定は帳簿等を利用して容易に行えますので、仕訳は比較的かんたんだといえます。

受け取り対価が株式と金銭等が両方ある場合

受け取り対価が株式だけではまかなえず、金銭などを併用する場合があります。この場合も原則的には投資が継続しているとは認識されません。したがって、完全親会社が取得した完全子会社の株式発行価額の簿価に対して、受け取り対価の時価を算定して差額を求め、交換損益として会計処理することになります。

ただし、株式が含まれていることにより、投資が継続していると判断される場合もあるので、あらかじめ確認しておく必要があります。

株式交換の税務処理方法

株式交換の税務処理方法

株式交換では、完全親会社となる企業が完全子会社となる企業の株式を取得しますが、これは通常は譲渡取引とみなされ、税務においては時価評価が原則です。しかし一定の要件を満たした場合、適格株式交換と認識され、取引は簿価で評価されます。

以下に適格株式交換の場合と非適格株式交換の場合の親会社、子会社、それぞれの株主における税務について解説します。

適格株式交換の税務処理方法

親会社の税務は、株式交換前の完全子会社の株主数で違ってきます。50人未満の場合は、直前の帳簿価額の相当額で株式の取得価額が算定されます。50人以上では、株式の取得価額は完全子会社化される企業の簿価純資産額の相当額になります。この取得価額から株式交換で発生する資本金を減額したものが、完全親会社の資本金増加分とされます。

また、完全子会社の株主は、完全親会社への株式譲渡があったと見なされます。その帳簿価額で各事業年度の所得を算定し、譲渡損益は繰り延べされます。

完全親会社の株主は取引当事者ではなく、完全子会社には資産などの変動はないと見なされ、いずれも税務は要しません。

非適格株式交換の税務処理方法

この場合、まず株式の取得価額が時価で評価される点が大きな違いです。完全親会社は、時価で評価された株式の取得価額から株式交換で発生する資本金を減額したものが資本金の増加分として認識されます。

完全子会社は、取得価額が時価で評価されるため、交換直前の簿価資産額との間に差損益が生じます。これは株式交換が行われた事業年度の収支に算入しなければなりません。

完全子会社の株主は、対価を親会社の株式として取得している場合は、交換直前の子会社株式の簿価を親会社株式に付け替えることになります。しかし、対価が株式以外の場合は、これを時価で評価し、子会社の消滅する株式との差額を損益として認識します。いずれの場合でも、みなし配当は生じません。

完全親会社の株主は、非適格株式交換においても取引当事者ではないため、税務は生じません。

株式交換におけるのれんの処理は?

株式交換におけるのれんの処理は?

のれんは、M&Aの際に生じる譲渡対象の純資産と譲渡価額の差額のことで、これがプラスになるということは、企業価値が純資産を上回っていることを示します。これは企業のブランド力というべきもので、会計上は無形固定資産として処理されます。株式交換では原則的にはこうしたことは起きにくく、基本的にのれんの処理は不要です。

しかし、これは個別財務諸表の話で、親会社の自己株式の価額が株式取得の対価となるため、仕訳で取得株式と資本金が同額で借方と貸方となるからです。グループ企業としての連結決算では、投資と資本の相殺消去仕訳の計上を要します。このとき、純資産に対して子会社株式とのれんが同額となるようにするため、会計上ののれんが発生し、処理が必要になります。

企業買収・M&A相談ならウィルゲートM&A

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株式交換は完全親子関係を作るために有効なスキームです。しかしその仕訳や税務は、企業間の関係や対価の内容で大きく違ってきます。こうしたことを正確に処理するには専門家の助力が必須でしょう。ウィルゲートM&Aは、成約実績30例以上の経験豊富なM&A仲介会社です。的確、迅速なサポートをお約束します。

株式交換の仕訳・会計処理 まとめ

株式交換の仕訳・会計処理 まとめ

株式交換の仕訳は原則的には完全親会社となる企業と、完全子会社となる企業の株主にしか発生しません。この2者の間での株式の取引が主軸となるからです。当然税務もこの2者が対象となります。しかし、何事にも例外はあるもので、交換前の会社の関係や、税務上の適格性の判断など考慮しなければならないことは多岐にわたります。

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