企業買収とは?手法や手続きの流れ、メリット、事例を解説

企業買収とは?手法や手続きの流れ、メリット、事例を解説

企業買収はM&Aの手法としては一般的なものです。しかしそのスキームは株式譲渡や事業譲渡など多岐にわたり、そのそれぞれに長短があります。また手続きをどう進めていいかよくわからない方も多いでしょう。

この記事では、企業買収の手法や手続きの流れ、メリット、事例を解説します。

企業買収とは?

企業買収とは?

企業買収とは、他の企業の経営権を支配するために発行済株式の過半数や、事業の一部や全部を買い取ることをいいます。一般に議決権株式の過半数を取得すると株主総会における普通決議を自由にコントロールでき、この状態を子会社化と呼びます。

2/3以上を獲得すれば、組織再編などの特別決議や少数の株主を強制排除するスクイーズアウトも可能になり、ほぼすべての経営権を自由にできるようになります。

敵対的買収と友好的買収の違い

敵対的買収と友好的買収の違い

企業買収は、敵対的買収と友好的買収に分けられます。日本におけるM&Aはほとんどが友好的買収です。この2つの違いは、一言でいえば買収される側の同意を得ずに行われるか、同意を得てから行うかという点にあります。

敵対的買収とは

敵対的買収は、買収される側の企業の従業員や株主などのステイクホルダーに当然のごとく疎まれ、そもそも成功することが少なく、仮に成功しても遺恨が生じる場合も多いので基本的に避けられがちです。敵対的買収で多く用いられるスキームはTOB(株式公開買付)であり、特に敵対的TOBと呼ぶこともあります。

敵対的TOBに先立って、買収提案と呼ばれる経営統合の提案を持ちかけることが一般的です。これには経営統合の意義や効果などを含み、買収される側の理解を求めるわけです。

買収される側はこの買収提案に不同意の場合、法律の許容範囲で可能な買収防衛策(クラウンジュエル、スーパーマジョリティ、ポイズンピル、ホワイトナイトなどの手法が知られています)を講じるのが一般的です。

友好的買収とは

友好的買収は、やはりTOB(特に友好的TOBと呼ばれます)で行われるケースもありますが、多く用いられるスキームは第三者割当増資です。特に株式を非公開にしている中小企業などでは、そもそもTOBが行えません。その意味でも株式非公開の企業を対象にして、経営陣の意向に反した敵対的買収はほぼ不可能です。

友好的買収では、売り手と買い手の利害は一致しており、買収される企業の意向や要望が受け入れられる場合が多く見られます。買収後の従業員の雇用の維持や事業の継続など、売り手側のメリットが多いことからも、できるだけこの形でM&Aを進めたいと考えるため、多くの事例が友好的買収となるわけです。

近年の会社買収・M&Aの動向

近年の会社買収・M&Aの動向

日本では、少子高齢化の影響もあり、2025年までに127万人にも及ぶ経営者が、自身の高齢を理由に引退を希望しながらも後継者不足に悩む事態が予測されています。この社会的状況に鑑みて、M&Aや企業買収が後継者不足に悩む中小企業の事業承継手段として注目されています。

実態としても、2012年以降の事業承継型の企業買収の案件数は右肩上がりで伸びており、M&A仲介会社が数多くこの分野に進出し活況を呈しています。政府としても中小企業の振興策として後押ししており、こうした傾向は一層強まると予想されます。

企業買収の目的

企業買収の目的

企業買収は、ほかの企業の経営権の支配や事業の取得にあることを述べました。ここではもう少し突っ込んで、より具体的に買収する側、される側の目論見を見ていきましょう。

ここで注目しておきたいのは買い手側の性格です。一般的に買い手企業は売り手企業の経営権や事業を獲得することで自社の規模拡大や成長を図り、売り手企業の価値を長期的に保持し続けようと考えます。これをストラテジックバイヤーと呼びます。

しかし、買い手の中には売り手企業の業績や株価を引き上げ、差益を得るために企業を売却する投資ファンドのような存在もあります。こちらはフィナンシャルバイヤーと呼ばれ、売り手企業を長く保持することを望みません。

買い手の性格により、最終的に獲得するものが自社の成長か売却益かの違いはありますが、企業買収そのものの目指す目的は変わりません。大きく5つ考えられます。

事業拡大

買い手企業は売り手企業の事業を合わせて事業規模が拡大できます。同業種の企業を買収した場合は、売り手企業の生産力や販路をそのまま承継して事業拡大の効果がより一層望めます。この場合、事業規模における経済性でより優位に立ち、事業単位あたりのコスト削減が図れます。

また事業地域を広げることで事業規模の拡大を目指す買収もこの類型にあたります。国内はもとより、海外に販路を拡大するには、非常に効果的なM&Aの手法といえます。

このような経済性が上がる効果を生産シナジー効果と呼びます。業績好調な企業であっても、こうした生産シナジー効果を期待して、あえて大手同業種の企業傘下に入るケースも見られます。

シェアの確保

同じ業界に競合企業が多数あってシェアを分かち合っている場合、価格面での競合が起きやすく、費用対効率の低下から収益性が阻害されることがあります。

企業買収によってシェアを獲得することで、業界のリーダーの地位を確保し、競合を回避した戦略を取ることが可能になり、収益性の改善が期待できます。特に比較的小規模の同業者を複数買収することによって、経営資源の共有化による効率化を合わせてシェア拡大を図る手法をロールアップと称します。

こうした企業買収は、シェアの比率が上がりすぎると独占禁止法に触れる可能性が出てくるので注意が必要です。

シナジー効果

売り手企業の事業を獲得することで、買い手企業の既存事業によい影響を及ぼし、業績改善につなげることをシナジー効果といいます。シナジー効果とは、単純な足し算にとどまらない、新しい事業に取り組むことによる相乗効果を指します。

事業間で影響しあっての売上の上昇や、共同的に事業を運営することによる効率化から得られるコスト削減など、シナジー効果は多岐にわたります。こうした効果をできるだけ大きく得られるように、買収戦略を持つことが重要です。

経営の効率化

売り手企業としては、買い手企業に自社の事業等を売却することにより、自社の経営の効率化が図れます。特に不採算事業や、シナジー効果に薄い部門などを売却することで、経営状態の改善を期待できます。また売却益自体が自社の財務状況の改善に資することも望めます。

事業承継

昨今、後継者不足に悩む中小企業などでは、売却を考える大きな理由が事業承継でしょう。事業承継を目的とする企業買収は増加傾向にあり、廃業を避ける窮余の策として期待する経営者は少なくありません。

企業買収の手法・スキーム

企業買収の手法・スキーム

企業買収の手法・スキームとしては大きく3つあります。売り手企業の株式を取得して経営権を得る株式取得、売り手企業の特定の事業を買い取る事業譲渡、売り手企業の一部を切り出して承継する会社分割です。それぞれに特徴のある手法ですので、1つずつ詳しく解説していきます。

株式取得

株式取得は、プロセスが明快です。いくつか類型はありますが、要するに取引によって対象企業の株式の過半数を得ることが目的となります。ただし買収先の同意が得られずに敵対的買収となってしまうと、買収防衛策を講じられ成果が乏しくなる可能性をはらんでいます。

株式譲渡

株式譲渡は、最も一般的に行われる方法です。中小企業などの場合、経営者が自社の株式の大多数を持っていることも多く、その場合は経営者間での同意が得られていれば非常にスムーズに株式取得が可能です。売り手企業はまるごと経営権が移転するので、従業員の雇用や事業そのものは継続されます。

株式移転

株式移転は、主に持株会社を設立して企業をグループ化する際に用いられる手法です。いわゆる買い手企業にあたる企業も持株会社の子会社化されるのが特徴です。

売り手、買い手双方が、新設する持株会社の新株の交付を受け、対価としてそれぞれの全株式を持株会社に取得させる(つまり持株会社に既存の株式を移転させる)ことによって、買い手、売り手の双方が持株会社に完全子会社化されるスキームです。

株式交換

株式交換は、売り手企業を買い手企業の完全子会社化する手法です。売り手企業はその全株式を、買い手企業が発行する新株を対価として譲渡する(つまり株式を交換する)ことで買収を行います。株式移転との違いは、持株会社が親会社になるのではなく、買い手企業が親会社となる点です。

第三者割当増資

第三者割当増資とは、売り手企業が新株を発行し(増資)、その交付先として買い手企業を割り当て(第三者割当)て、売り手企業の経営権を取得させる手法です。新株を発行する際に、誰に交付するかを指定できることを利用して行う買収となります。売り手側が完全に同意していなければ実施は不可能ですので、必ず友好的買収となります。

あくまでも増資分を取得するので、100%株式の取得を目指す場合には不適です。売り手企業としては、単なる増資なので資本金の追加登記の登録免許税程度の税負担ですむため、節税効果が望めます。

その他

上場企業に対する買収として一般的に行われるのがTOBです。買い手企業が売り手企業の株式を市場で買い付ける旨を公表し、株式の保有率を高めて経営権を取得する手法です。

取得株数が予定数に達しなかった場合、TOBを取り消して株を返却できるのでリスクが小さい手法といえます。売り手企業の子会社化をねらう場合が多く、特に敵対的買収はほとんどこの方法で行われます。

このほかにMBOという手法もあります。これは自社の株式を役員が自己資金で買い付ける方法で、自主的経営権を確立したり強化したりすることを目的に行います。子会社をグループから独立させたり、事業承継を図ったりする場合に多く用いられます。資金を金融機関やファンドから調達する必要があります。

事業譲渡

売り手企業そのものや経営権の支配は目指さず、特定の事業だけを、その関連資産等とともに譲り受ける手法です。会社単位での売買ではないので比較的M&Aの抵抗が小さくて済みますが、従業員の雇用や権利義務なども含めた包括承継とはならないので、承継に伴う個別の契約関係が煩雑になりやすい特徴があります。

会社分割

会社分割は必ずしも買収を目的としない場合もありますが、事業譲渡ではなく売り手企業の事業の一部を譲り受けたい場合に用いられる手法です。

分割の対象となる企業は、特定の事業を関連する資産や雇用関係などを包括して切り離して子会社化し、その子会社を承継した企業から対価として株式を得ることで行われます。大きく新設分割と吸収分割の2つがあります。

新設分割は、対象となる事業部門を切り離して新設会社として設立し、その発行株式を元の企業が保有する分社型と、元の企業の株主が保有する分割型があります。後者は元の企業と新設会社が株主を通して共有されるので、子会社化ではなくグループ企業化します。

吸収分割は、切り離した事業を別な企業が引き継ぐ(承継会社といいます)形で、こちらの手法が買収の際のスキームとして用いられます。これにも分社型と分割型があり、前者は分割元の会社が承継会社となった買い手企業の株主となり、後者は分割元の会社の株主が承継会社の株主となることになります。

企業買収のメリット

企業買収のメリット

企業買収のメリットは、どのスキームを選ぶかによって異なります。ここではスキームごとのメリットについて挙げていきます。

メリット① 株式取得の場合

株式取得にはいくつかの手法がありますので、それによってもメリットは違ってきます。

株式譲渡は、その手続の簡便さが何よりも大きなメリットです。株式譲渡契約を締結し、買い手から株式の対価が支払われた段階で株主名簿を書き換える、と手続きはいたってシンプルです。

株式移転や株式交換では、売り手企業を完全子会社化できるのがメリットです。このスキームでは、売り手企業の全発行済株式の譲渡が行われるためです。また譲渡される株式の対価は買い手企業の株式となりますので、対価としての現金を調達する必要がなく、比較的容易に実施できるのも利点です。

第三者割当増資は、新株予約権を割り当てる点が重要です。つまり売り手企業の現在の株主の持ち株比率に関わらず、過半数の株式を得られる点が魅力です。例えば売り手企業の経営者の持ち株比率が低く、株式譲渡などでは経営権を得られない場合でも実施可能です。

TOBは売り手企業の意思にかかわらず、第三者の株式を買い集めて経営権の獲得が可能な点がメリットです。敵対的買収がどうしても必要な場合にはほぼ唯一の手段となります。MBOは自社の経営陣による買収であるため、後継者不足に悩む企業の事業承継の手段として利用可能な点がメリットです。

メリット② 事業譲渡の場合

事業譲渡は売り手企業の特定の事業部分のみを切り出す形での買収です。つまり売り手企業の経営権にはかかわりません。このことを裏返していうと、経営上の問題にもかかわらなくてよいということであり、例えば負債や法務上のリスクなどを一緒に抱え込むことがないというメリットがあります。

メリット③ 会社分割の場合

会社分割では、新設分割と吸収分割の異なるスキームがありますが、メリットは大きく一つで、事業にかかわる経営資源を包括承継できる点です。

新設分割は、厳密には買収ではなくまさに会社を分けることですが、新設会社から見れば分割元の企業から特定の事業部分を譲り受けたことになります。

吸収分割では、承継会社がこの事業部分を譲り受けます。事業部分には、携わる人材、技術的なノウハウ、営業に関わる取引関係、場合によっては許認可に至るまでまるごと含まれます。承継を受けた買い手企業は、改めて契約関係などを処理することなく、すぐに事業を継続できます。

メリット④ 売り手企業側

売り手企業側は子会社化されたり、法人格を失ったりしてメリットはないように見えます。しかし、買収されることによって経営改善ができる可能性があるのです。

子会社化は、より大きな資本のもとで事業を行えることを意味しますので、経営の安定化に資することが可能です。グループ企業としての広い営業範囲を得たり、新規の顧客開拓ができたりすれば、事業拡大も図れる可能性があります。

また事業譲渡を除けば、原則的に会社の事業そのものはまるごと引き継がれることになります。まさに事業承継そのものとなる可能性がありますし、従業員の雇用の維持も図れるのは大きなメリットです。

企業買収のデメリット

企業買収のデメリット

企業買収のデメリットも、スキームによって異なることが考えられます。デメリットもスキームごとに考えていきます。

デメリット① 株式取得の場合

株式取得におけるデメリットは、そのスキームによって大きく違ってきます。

株式移転や株式交換では、売り手企業の経営者(または経営陣が掌握している範囲)が全発行済株式を保有していることが前提になります。そうでない場合はそもそもこのスキームを用いることはできず、上場企業などの公開会社の買収には使えないことがデメリットです。株式を非公開にしている中小企業などに限定されるわけです。

第三者割当増資は、現在発行済株式と少なくとも同数の新株予約権を発行しないと過半数を得ることはできません。それだけ大量の株式発行による増資は、株価の下落を引き起こすリスクをはらみ、大きなデメリットとなります。

TOBは、買収防衛策などを講じられればなおさらですが、買付に必要な多額のコストが大きなデメリットです。また、公然と自社の買収が行われるわけですから、従業員への心理的影響は無視できず、場合によると従業員の就業意欲を大きな削ぐ可能性があることも見逃せません。

MBOでは自社株の買付けにかかる費用が大きなネックとなり、安易に実施することで大きな債務リスクを生じかねないことがデメリットです。

デメリット② 事業譲渡の場合

事業譲渡では、事業そのものや関連資産は譲渡されますが、従業員の雇用契約などの経営資源は承継されないのがデメリットです。

事業にかかわる人材を雇用し続けるためには、個別に雇用契約を締結し直す必要があり、許認可なども取り直さなければなりません。こうした附帯部分の契約等をうまく処理できないと、せっかく譲渡された事業がうまく回らない事態も考えられます。

デメリット③ 会社分割の場合

会社分割では、包括承継できるのがメリットなのですが、そのために煩雑な手続きを経る必要があるというデメリットがあります。吸収分割のほうがやや容易ですが、それでも事業譲渡に比べると踏むべき手順も多く、円滑な進捗は困難です。

新設分割の場合は会社設立の手続きも加わり、一層複雑になります。これを遺漏なく進めるには、行政書士など専門家への依頼は不可欠で、経費も無視できない負担となります。

企業買収の手続き・流れ

企業買収の手続き・流れ

企業買収は、M&Aの実施においてよくとられる手法です。その手続きと流れは、その意味ではM&Aの一般的な手順を示すことになります。M&Aは企業として成長を図る大事業ですので、着実に進めていく必要があります。

M&A戦略の策定

M&Aは、複数の会社が一つになることだけを目指すものではありません。統合された後の事業が現状維持や減衰にとどまるようではM&Aの意味はありません。統合によるプラスアルファ、つまりシナジーがあってこそのM&Aが必須で、そのためには戦略が重要です。

M&Aはあくまでも中期経営計画や企業としてのゴールを目指す手段であり、経過点としてとらえることが必要です。M&Aによって得られるリソースをどう活かすかを計画しておくことで、通過点としてのM&Aの必要性が強く認識され、成功に向けた真摯な取り組みが期待できます。

M&A仲介会社への依頼

M&A事態が目的化するという愚を犯すなら相手はどんな企業でもいいでしょうが、シナジーを生む戦略に合致する相手となると選択は容易ではありません。星の数ほどある企業の中から買収したい側と、買収されたい側のニーズと条件を合致させるには、豊富な情報の吟味と的確なすり合わせが必要です。

それを実現できる専門家集団がM&A仲介会社です。M&A仲介会社にも得意分野や、条件で差異がありますから、自社の戦略にあった仲介会社を選び、サポートを依頼することがM&A成功の第一歩となります。

相手企業の選定

M&A仲介会社は、一般にロングリストと呼ばれる、M&A候補企業を数十社リストアップしたものを提示します。依頼した企業はこのリストを自社の戦略に合わせて吟味し、数社程度に絞り込んだショートリストを作成します。

このリストをもとに、買収の可能性やシナジーの期待値などをもとにプライオリティを設定し、通常はM&A仲介会社を通して交渉を進めます。この段階では企業名はふせられた資料(ノンネームシート)によって交渉が進みます。

ある程度の納得が得られたら、当該企業間でNDA(秘密保持契約)を結び、より具体的な企業情報が記されたインフォメーション・メモランダム(企業概要書)を確認することになります。

トップ面談、条件交渉

M&Aの相手が絞られてきた段階で、M&A仲介会社越しではなく、直接のやりとりが行われます。一般的にはトップ面談と呼ばれる代表者同士の対面による交渉から開始されます。このことによって、M&Aの対象企業の最終決定の意思表明と、交渉相手との信頼関係の構築を図るのです。

この段階で売り手、買い手双方による企業価値の算定が行われ、買収価額について一定の合意を得ている場合が多いですが、細かな条件などはここから交渉が始まります。

基本合意契約

買収価額を中心に、M&Aの基本的な概要について合意に至れば、MOU(基本合意書)を締結する段階に移ります。ここでは買収価額やスキーム、独占交渉権の確認や、デューデリジェンスなどの交渉進捗のスケジュールなどが記載されます。

MOUは基本的に法的拘束力を持ちませんが、独占交渉権については意向表明書を取り交わし、万一の場合の賠償請求などを定めておくことが一般的です。このことによって売り手企業が他の企業と並行的に交渉を進める危険性を回避し、安心して次のプロセスに進めるようにします。

デューデリジェンス

デューデリジェンスは、売り手企業の協力を得ながら、買い手がその経営内容などを精査するプロセスです。MOUの中で、売り手企業は調査に対して情報提供することに合意しているので、経営内容、財務、法務、税務、労務など多岐にわたる面での状況把握を行います。

買い手はこのプロセスを通して想定外のリスクを回避し、必要に応じて条件交渉に追加的な内容を含めていくことになります。デューデリジェンスには非常に高度で専門的な知識を要しますので、M&A仲介会社の人的ネットワークなども活用しながら、弁護士や会計士、税理士などの専門家に依頼して行われるのが一般的です。

バリュエーション

買収価額はこの段階ではまだ暫定的です。デューデリジェンスも進んでおり、売り手企業の内情はかなり詳らかになってきていますので、より適正な価額の設定が求められます。とはいってもできるだけ高く売りたい売り手と安く買いたい買い手の間で、双方が納得する価額を導き出すのはなかなか困難な作業です。

価額の客観的な指標となる企業価値を算定する作業が、バリュエーション(企業価値評価)です。客観的な数値を算定するためファイナンス理論を用いた算定方式を採用することが一般的です。

最終契約締結

MOUをベースとした交渉が進み、最終的な妥結条件を探っていきます。デューデリジェンスで明らかになったリスクなどがあれば、それを回避する規定が盛り込まれることが一般的です。最終的に妥結した内容で最終契約書を締結します。

最終契約書としてはスキームに応じて株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などが作成されます。契約書に記載された効力発生日をもって、契約上の権利や義務が課せられる法的拘束力を持つ契約書となります。

クロージング

最終契約に沿って、株式や資産、さらに負債や対価としての現金などが相互に受け渡される作業がクロージングです。スキームによってクロージングで交わされる株式などは異なってきますので、最終契約書に沿って着実に行う必要があります。

クロージングをもってM&Aは完了となり企業買収のプロセスが終わります。ただし株主名簿の書き換えや登記変更の申請など事務作業は残っていますので、忘れないように気を付ける必要があります。

企業の売却価格の計算方法

企業の売却価格の計算方法

売り手企業の売却価格を求めるために、企業価値を算定します。ファイナンス理論に基づく3つの計算方法が主に用いられます。

コストアプローチ

時価純資産法が代表的な算定方法で、企業の純資産に着目する算定方法です。

マーケットアプローチ

類似会社比較法がよく知られており、類似した上場企業の株価に業績から求めた倍率を乗じて株価を推定し企業価値を評価する方法です。

インカムアプローチ

DCF法が代表的です。将来的に予測されるキャッシュフローの現在価値に着目する算定方法です。

企業買収でかかる費用・税金

企業買収でかかる費用・税金

企業買収で必要となる費用は以下のものが考えられます。

買収資金

売り手企業の企業価値に応じて妥結する買収価額に相当する資金です。スキームによっては株式などが対価となり現金を要しない場合もあります。

人件費

デューデリジェンスや交渉等にあたる人材にかかる費用です。デューデリジェンスの経費は一般的に買収価額の5~8%といわれ、50~300万円程度は必要とされています。

M&A仲介会社の手数料

M&A会社によりますが買収価額の数%とされるのが一般的です。完全成功報酬制だったり、中間報酬があったり、支払い方法も会社によって異なります。

このほか、税金も必要になります。例えば株式譲渡のスキームの場合、売却したのが個人であれば所得税15.315%と住民税5%が、法人であれば29.74%の法人税等がかかります。

事業譲渡であれば、売却が伴うので法人に対して消費税も課税されます。このほか顕著に安かったり高かったりした取引の場合、売り手に贈与税が生じたり、買い手に受贈益に対する法人税が加算されたりすることがあります。

企業買収された会社に起こる変化

企業買収された会社に起こる変化

買収された企業は、買い手企業の傘下に入ります。買収後の条件も最終契約に盛り込まれることが多いですが、傘下に入る以上、買い手企業の考えによって処遇などが大きく変化する場合もあります。

代表者の処遇

代表者は事業承継の場合は原則引退となります。ただしPMI(経営統合)上の必要から、しばらく残留するよう要請される場合もあります。また子会社化による事業継続の場合は、そのまま経営体制を維持することも多く見られます。

役員の処遇

実態の伴わないことが多い非常勤役員は、多くは退任します。常勤役員は、買収企業側の状況によっては続投を依頼され、引き続き買収された企業の経営にあたることも少なくありません。しかし残留したとしても、役員としての報酬等の処遇は、株主総会を経て変更される場合があります。

社員・従業員の処遇

株式譲渡などの場合、経営権が移動するだけなので、原則的に社員や従業員の処遇は維持されます。事業譲渡の場合は雇用契約を結び直すことになるので、買い手側の事情によっては労働条件が変わることがあり得ます。

社内制度

PMIの進捗に合わせて、人事制度は買い手企業側のシステムにすり合わせされていきます。しかし労働者の不利益変更による訴訟リスクを避けるため、1~2年をかけて個別に交渉しながら進むのが一般的です。また福利厚生も買い手側に合わせていくのが普通です。

その他

企業文化の違う企業が一緒になるわけですから、社風などは買い手側に合わせていくことになります。場合によると大きなギャップを感じることが考えられます。

企業買収を行う際の注意点

企業買収を行う際の注意点

企業買収を行う場合、とにかくデューデリジェンスを徹底的に行うことです。売り手側は自社の欠点をあえて見せようとはしません。簿外債務や訴訟トラブルなど、顕在化していないリスクを徹底的に排除していくことには細心の注意を払う必要があります。

M&Aの売り手企業が大きすぎると、倒産など万一の際の損害は莫大なものになり、買い手側の企業の存続にも関わってきます。一般に買い手側の売上高の3割未満が売り手企業として適当といわれています。

M&A後の話にはなりますが、PMIを失敗して期待したシナジーを得られないという事例が散見されます。あらかじめ100日計画を立案して統合事務の見通しを持ち、統合を踏まえた中期経営計画を策定しておくことで、そうしたリスクを低減させられます。

企業買収を成功させるポイント

企業買収を成功させるポイント

成功のポイントの1つ目は、シナジー効果を見込める相手を見つけることです。買収する企業の活用方法を見越した事業計画を策定してみて、シナジー効果を見通しておくべきです。この見込みが持てる企業を根気強く探すことが重要です。

そしてもう一つのポイントは、よりよい相手先を見つける意味でも、信頼できるM&A仲介会社にサポートを依頼することです。M&Aにかかわる実績や情報を豊富に持つ専門家を頼むことは、M&A成功の確率を格段に向上させます。

企業買収の事例

企業買収の事例

企業買収は事業拡大を目指す上で非常に効果的なM&A手法であり、参考となる事例も多くあります。ここでは3つの例を紹介します。

1. 楽天

楽天株式会社は、多くのM&Aによって事業拡大を図ってきました。2004年9月、株式会社あおぞらカードを買収してカード事業に参入、2008年9月には株式会社オーネットを買収して結婚情報サービス事業も開始、2010年ビットワレット株式会社の事業譲渡を受けて楽天edyのサービスを始めました。

2012年のkobo社(カナダ)買収による電子書籍事業、2014年バイバーメディア社(キプロス)の無料メッセージアプリの買収など、グローバルな展開にもM&Aを活用している事例です。

2. 大阪地下街

2020年、大阪地下街は高島屋が保有する新南海ストアの全株式の譲渡を受けました。ネット通販などの活況を受けて収益性が悪化していた大阪地下街、高島屋と南海電鉄の思惑が一致しての買収でした。大阪地下街が駅近の商業施設としての強みを活かした、経営の効率化を目指した事例です。

3. 住友ベークライト

川澄化学工業に2020年にTOBを仕掛けた住友ベークライトは、同社を完全子会社化しました。川澄化学工業は1987年に東証2部上場した医療機器メーカーで、2019年から住友ベークライトが約23%を出資する資本業務提携をしていました。両者の持つ研究開発や営業面でのシナジー効果をねらった事例です。

企業買収・M&A相談ならウィルゲートM&A

企業買収・M&A相談ならウィルゲートM&A

企業買収を成功させる秘訣は、信頼できるM&A仲介会社のサポートを受けることだと述べました。

そういわれてもどこがよいかと迷っているなら、ウィルゲートM&Aをおすすめします。長くWebサイトなどの運用支援に関わっていた実績もあり、特にWebやIT事業でのM&Aで豊富なノウハウがあります。9,100社以上の経営者ネットワークを持ち、最適な相手企業とのマッチングを迅速に行えます。

企業買収 まとめ

企業買収 まとめ

企業買収のスキームは非常に多岐にわたり、そのメリットやデメリットも多様です。自社のM&A戦略を慎重に検討して、確実な手順で事を進めなければ、シナジー効果の高い買収成功事例になることはできません。

どのように考えていけばいいか相談してみたい方は、一度ウィルゲートM&Aの無料相談をぜひご利用ください。

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