会社買収とは?手法や手続きの流れ、メリット・デメリットを解説

会社買収とは?手法や手続きの流れ、メリット・デメリットを解説

会社買収というとどのようなイメージでしょうか?巨大企業が零細な会社を飲み込んでいく、経済小説のようなおどろおどろしさを想像する方もいることでしょう。しかしこの手法は、実は事業拡大や会社の存続を図る上で有効な手法でもあります。

この記事では、会社買収の意味や手法・手続きの流れ、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

会社買収とは?

会社買収とは?

会社買収を一言でいうと、他の会社を買い取って、自分の会社や企業グループの傘下に収めるM&Aの手法です。一般的には発行済株式を過半数以上買い取って子会社化する形で行われます。過半数の株式を保有すれば、普通決議によって役員の選任などを自由に行えて、日常的な経営活動を支配下におけるからです。2/3以上の株式を保有すれば、特別決議によって定款や組織の変更も自由になり、ほぼすべての経営権を掌握できます。また特定の株主を強制排除するスクイーズアウトも検討可能になるのです。

事業買収という手法もあります。これは会社の経営権全体ではなく、特定の事業に限って取得するものをいい、会社買収とは区別されます。

会社合併と混同されることもありますが、両者には決定的な違いがあります。会社合併においては、売り手側の企業はその全権限を買い手に移行させる(吸収合併)か、新たに設立する会社に引き継がれる(新設合併)ので、法人格を失います。しかし会社買収では、子会社化にせよ事業譲渡にせよ、売り手側の企業はその法人格を残したまま買い手の傘下に加わることになります。

敵対的買収と友好的買収の違い

敵対的買収と友好的買収の違い

会社買収は、売り手、買い手がどういう立場でこれに臨むかという視点で2つに分けられます。それぞれがどういう性質のものか、その違いは何かを解説します。

敵対的買収とは?

売り手側の同意を得ないままに進める買収を敵対的買収と呼びます。敵対的買収が非上場企業で行われることはほとんどありません。一般的に非上場企業では、株式譲渡制限の付された株式を相対買付で買収を進めることになるため、売り手側の同意なく進めることが非常に困難だからです。

上場企業に対する敵対的買収は、多くの場合TOB(株式公開買付)で行われます。TOBは、不特定多数に対して、公告で株式の買付けまたは売付けの申込みを誘い、株式市場外で買付けなどを行う行為と規定されています。(金融商品取引法第27条の2第6項)買い手はこのTOBによって株式の過半数を取得し、経営権を奪取しようとするわけです。

売り手側は座して買い手の行為を見守るかというとそうではありません。買収防衛策と呼ばれる対抗手段を講じることが可能です。主な買収防衛策を挙げてみます。

企業価値の意図的な低減

重要資産の売却などで買収の意義を失わせる「クラウンジュエル(焦土作戦)」や、買収後に現経営陣が解雇された場合に巨額の退職金を支払う契約を結んで買収後の企業価値を落とす「ゴールデンパラシュート」などがあります

取締役会の保護

定款を変更して役員の解任や合併の承認などを特別決議化することで経営権の支配を困難にさせる「スーパーマジョリティ」や、役員任期をずらして一斉に変更できなくする「スタッガードボード」などがあります

株主総会の保護

会社の重要事項についての拒否権を有する黄金株を売り手に味方する株主に与えておく「ゴールデンシェア」や、新株予約権(新株を有利な価額で取得できる権利)を既存株主に割り当てて買い手側の買収を難しくする「ポイズンピル(ライツプラン)」、第三者割当増資や新株予約権の割当で友好的な買収者に買収を依頼する「ホワイトナイト」などがあります

買収者への攻撃

買い手側に対抗的な買収を仕掛ける「パックマンディフェンス」などがあります

TOBの阻止

上場廃止して株式を非公開化する「ゴーイングプライベート」などがあります

友好的買収とは!?

売り手側が同意したうえで進められるものを友好的買収と呼びます。売り手、買い手双方のトップ面談やその後の条件交渉などで合意事項を確認しながら進められます。日本国内におけるM&Aではほとんどが友好的買収です。

具体的には株式譲渡や株式交換、第三者割当増資、事業譲渡等、多様なスキームによって買収が行われます。TOBによって行われる場合もありますが、これは特に友好的TOBと呼ばれます。

友好的買収は双方がベネフィットを感じているので成功確率は高いですが、必ずうまくいくとは限りません。買い手側のデューデリジェンスで売り手の思わぬリスクが露見したり、条件交渉が難航したりすれば買収そのものが決裂することがあり得るからです。

2つの買収の違い

2つの買収の最も大きな違いは、売り手、買い手の間に合意があるかどうかということです。国内のM&Aは非上場の中小企業が対象となることが多く、友好的な買収がほとんどです。

上場企業における敵対的買収もないわけではありません。敵対的買収は基本的にTOB以外の手段がないので、その攻防は激烈を極めます。結果的に費用面で高く付いたり、成功確率が低かったりすることなどもあり、リスク回避の観点から選択されにくい買収方法であるといえます。

近年の会社買収・M&Aの動向

近年の会社買収・M&Aの動向

日本国内における会社買収は年を追うごとに増加傾向を示しています。

その要因が少子高齢化にあるというと、「風が吹けば桶屋が儲かる」のような話か、と思われるかもしれません。実はもっと直接的で深刻な経営課題があります。

中小M&Aガイドライン(中小企業庁)」では、2025年までに約245万人の中小企業等の経営者が70歳を迎えるとしています。これは高齢化の影響です。そしてそのおよそ半分、約127万人が後継者を得られないと見込んでいます。これは親族による事業承継がうまく進まないことを示しており、少子化の影響もあるわけです。こうした中小企業などが廃業を回避するために、第三者への会社売却によるM&Aで事業承継するケースが増えています。「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題(同庁)」によれば、2012年から増え始めた事業承継型のM&Aは2018年には544件(公表ベース)にのぼっています。

少子高齢化は日本の国内市場規模の成長減衰も引き起こしています。このことは企業のグローバル化も推進しているわけですが、こうした面で企業規模の拡大が求められています。企業規模拡大の有効な手法の一つが会社買収によるM&Aであり、少子高齢化は買い手側の買収の必要性にも影響しているわけです。

会社買収を推し進める社会的な要求が高まる中でも、唯々諾々と会社買収を受け入れることはできません。買収防衛策を講じる会社も増えてきて、会社買収のあり方や必要性なども見直される時期にさしかかっています。

会社買収の主な目的

会社買収の主な目的

会社買収を行う買い手企業はどんな目的を持っているのでしょうか?M&Aを行う以上は、そこには明確な目的があります。ここでは主に4つの目的を挙げます。

経営上のリソースの獲得

M&Aで会社買収をするのは結論的には事業を拡大したいからです。事業拡大には経営上のリソースを獲得する必要があります。ここでいうリソースとは、単に資金や施設といったものにとどまりません。売り手企業の優秀な人材、経営上のノウハウ、販売ネットワークや事業に必要な許認可事項など、目に見えないリソースは重要です。新規事業の創出や新製品の開発、新たな販路など事業規模の拡大に直結するからです。そしてこれらの経営上のリソースを自由に使える経営権こそが、最大のリソースといえます。

また単純に同業界の企業を買収することによる企業規模の拡大は大きなスケールメリットを与えてくれます。シェアの獲得など経営効率を高める効果が見込めます。また事業のエリアが広がることによるスケールメリットも重要なポイントです。

組織の再編

会社買収は、一般に子会社化によって完結します。事業清算をしたり、統合をしたりする場合、企業グループとしての組織再編は有効な手段です。また一部の事業を別会社として子会社化することなども、コストの削減や技術承継などを図る組織再編の例です。こうした場合は、株式交換や移転、会社分割といった手法が多く用いられます。

また、規模の小さい同業企業を複数買収し企業グループ化することで、事業規模の拡大とともに経営上のリソースの共有化を図り、グループ全体としての収益効率を上げること(ロールアップ)も組織の再編に買収が利用される一例です。

リスクヘッジ

経営において、事業が単一化するほどもしもの場合の損害は大きくなります。事業を多角化し、異業種をグループ化していくことでグループ全体のリスクを低減させられます。この目的での会社買収は、本業とは関連性の薄い企業を子会社化していくことに主眼が置かれます。

節税対策

会社買収が節税になるというのはちょっとピンとこないかもしれません。この場合買収対象となるのは赤字の企業です。買収した企業の赤字は繰越欠損金として翌年から7年間、所得と通算できます。つまり、赤字企業を買収することにより、所得を減らして法人税を節税できるというわけです。2018年4月以降開始となる事業では、欠損金の繰越期間は10年間に延長されました。該当する事業では翌年以降に利益が出ても欠損金のマイナスと相殺されます。

これらの対策は法人税の規定で、一定要件を満たす場合は一部の繰越欠損金が使えなかったり、連結納税を利用している場合に利用条件が制限されたりすることには注意が必要です。

会社買収の手法・スキーム

会社買収の手法・スキーム

会社買収は、一般的には株式の過半数以上を取得し、経営権を獲得することで行われます。売り手企業は子会社化され、買い手の企業グループに加わることになります。では具体的にどのように会社買収が行われるのか、ここではその手法を見ていきます。

株式譲渡

最も一般的に行われるのは、売り手企業の発行済株式を対価を支払って買い取る株式譲渡です。経営権獲得には少なくとも過半数、特別決議まで自由にするためには2/3の議決権株式の取得を要します。

株主総会での承認や債権者の保護が必要ないなど、比較的容易に手続きが進められるのが魅力です。譲渡制限が付与されている場合でも、株式譲渡の承認と株主名簿の書き換えといった社内手続きのみで完了します。

買収後も売り手企業は独立性を保った法人格を維持できるので、PMI(経営統合)が円滑に進む点も長所です。ただ売り手企業をまるごと引き継ぐことになるので、シナジー効果が得にくかったり、売り手企業に簿外債務などがあった場合に不測のリスクを抱えたりする可能性があります。

買収にあたっては売り手にのみ、個人であれば所得税と住民税(20.315%)、法人ならば法人税が課税されます。

株式交換、移転

株式交換は、売り手企業の株式を買い手企業が取得する際に、買い手企業の株式を譲り渡す手法です。株式移転は、株式のすべてを新設する株式会社に取得させる手法です。どちらの手法でも取得する株式の対価は株式で支払われる点が特徴です。会社買収の対価として資金調達を要しない点が最大のメリットです。

株式交換は売り手企業は子会社化しますが、株式移転では新設会社が持株会社となり、既存の企業はこの持株会社を介したグループ企業となります。

売り手企業が買い手企業の株主になる点には注意が必要で、場合によると買い手企業の独立性が揺らぐ可能性があります。また多くの場合株主総会の特別決議が必要になることも注意を要します。

第三者割当増資

財務状況が悪化している企業の買収や、相手企業と資本提携したり、関連企業化したりする目的で行われる手法で、第三者に対して新株を割り当てて発行する方法で行われます。売り手企業の株主は株式を保有し続けますから、100%の株式の取得はあり得ません。

第三者割当増資は、原則的に取締役会の決議のみで実施可能です。売り手企業の株主からの同意は必要としません。合わせてTOBにかかわる制限も受けないことや、対価として支払われた資金がそのまま売り手企業に投入されることもメリットです。

しかし完全に経営権を取得することはできず、既存株の過半数を得るよりも多く新株を獲得する必要があるために、資金が高く付くことがデメリットになります。

事業譲渡

会社の全経営権を必要とせず、特定の事業のみを買い取りたい場合に行われます。ここでいう事業とは、特定の目的のために組織化、一体化されたものを指します。すなわち事業譲渡とは、単に事業にかかわる資産や権利だけでなく、そこに必要なネットワークやノウハウ、あるいは人材などの無形資産も含めて買収する手法をいうわけです。

特定の事業に買収範囲が限定されるため、経営上のリスクや必要のない資産などを承継しないで済みます。また買収資金も最小限で済むこともメリットです。

事業に付随する契約や個別の資産の権利移転に手続きが必要になるなど、買収の完了に時間と労力を要します。また人材の引き継ぎに関して、個別の同意を得られず目論見が外れる場合があることも注意しなければなりません。

会社分割

会社分割は、新設する会社に承継する「新設分割」と既存の企業が承継する「吸収分割」の2通りがあり、売り手企業が持つ特定の事業や権利義務などを、買い手企業に移転させる手法です。組織再編のために行われることが多いのですが、事業譲渡などに伴って活用されることもあります。

対価として株式を用いるため資金調達がいらず、権利義務を含めた包括的な承継が可能です。また従業員からの個別の同意を要しないため、確実に人材を引き継げるのも大きな魅力です。

対価として株式が用いられるため買い手側の株主構成に変化を生じることには注意が必要です。そのほか労働契約承継法に基づく手続きを要することや、買い手の資本金等が増加する場合に法人住民税の均等割や事業別の資本割にあたる税金が増える可能性があるのもデメリットです。

会社買収のメリット

会社買収のメリット

会社買収することによってさまざまなメリットが生まれます。ここでは売り手、買い手、それぞれの立場からくわしく見ていきます。

売り手側のメリット

売り手側が会社買収のスキームを選択するのは、事業承継が主な理由であることは説明しました。しかし、売却後も会社は残り続けるのがこのスキームの特徴ですから、企業としてのメリットは後継者問題の解決だけではありません

メリット①後継者問題対策

後継者問題に見通しを持てることは、廃業の危機を迎えた中小企業にとっては、やはり一番の関心事です。事業全体を買い手に委ねられる会社買収は、企業の継続性を担保するという大きなメリットがあります。

メリット②従業員の雇用維持

買収によって会社が事業を継続できれば、そこで働く従業員の雇用も安定させられます。従業員個人の失職を防ぐという意味以上に、従業員のモチベーション維持による企業の活性化の観点でもメリットは大きいものがあります。

メリット③経営の安定性に資する企業グループ化

特に中小企業にとって、安定した資本を確保し経営を安定化させることは重大な経営課題です。買い手である大手企業の傘下に入ることや、同業企業でグループ化して資本を増強することは極めて有効な経営安定策になり得ます。

メリット④経営の健全化

会社の経営を安定的に行うことは容易ではありません。特に株主の意向に経営を左右されやすい中小企業ならなおさらです。会社買収によって、買い手企業が発言力のある株主としてその実績やノウハウを活かすことで、健全で安定的な経営に立て直せる好機となり得ます。

メリット⑤売却益の確保

株式譲渡による会社買収の場合、その対価は一般に現金で支払われます。中小企業などでオーナー経営者が勇退を考える場合には、大きなリタイア資金が得られます。企業としては、新規事業を開拓したり、負債を清算したりする資金源として有効活用することで、企業としての成長を見込めます。

買い手側のメリット

買い手側のメリットは、買収の大きな目的である事業の拡大に直結するものです。ここでは5つ挙げておきます。

メリット①事業規模の拡大

買い手企業は売り手企業のすべての経営権をそのまま引き継ぐことになります。つまり、その事業や販路などをそのまま利用して自社の事業規模を拡大できるわけです。リスクヘッジの考えからあえて異業種を買収した場合などは、既得のノウハウや営業基盤を活かして、全くの新規事業に低リスクで乗り出すこともできます。

また事業規模を拡大すれば、従来よりも大量に仕入れをしたり、輸送、販売をしたりできるようになります。こうした業務の大規模化によるコスト低減効果も大きなメリットです。

メリット②経営の効率化

会社買収によリグループ化された企業は、お互いに不足を補い合ったり、得意分野を拡充したりできます。グループ企業同士で情報や技術、さらには業務面での共有化が進めば、無駄を省き効率的な経営が行いやすくなります。会社買収では売り手企業はそのまま事業を継続できます。そうした独立性をうまく担保しながら親会社がサポートすることで、既存事業の採算性も上がることが期待できます。

メリット③人的リソースの獲得

会社買収は、売り手企業のすべてをそのまま獲得できます。つまり優秀な従業員や取引先とのネットワークなどの人的リソースもまるごと承継できます。これらの人的リソースには、技術力や営業力などの事業拡大のための得難い武器が伴われます。本来、多大な時間と労力を要する人づくりやコネクション形成のコストを大幅にカットできます。

メリット④施設、設備の拡充

事業拡大の際には多額の設備投資を伴うのが普通です。その設備等を使いこなす技術を身につける時間も馬鹿にできません。しかし会社買収なら、それを使いこなす技術も含めて、比較的低コストで必要な施設設備の拡充が可能です。

メリット⑤シナジー効果

売り手企業の人材、技術などを取り込み、PMI(経営統合)によって既存の人材やノウハウと組み合わせることで新たな事業開拓が可能になるなど、プラスアルファの効果も期待できます。こうしたシナジー効果が望めるのも会社買収の大きなメリットです。

会社買収のデメリット

会社買収のデメリット

いいことばかりがあるような会社買収ですが、そんなうまい話があるわけもありません。会社買収によってさまざまなリスクを背負い込む可能性は見過ごせません。これも売り手、買い手それぞれについて見ていきます。

売り手側のデメリット

売り手側のデメリットとしては、そもそも買収がうまく行かなくなるようなファクターや買収後にトラブルになる可能性などが挙げられます。主なものを4つ挙げます。

デメリット①買収相手の不在

売り手が会社清算などを目的に売却を希望したとしても、必ず買い手が見つかるという保証はありません。買い手が現れなければ、当然会社買収は不調に終わってしまいます。これを避けるには、事業実績を維持することはもちろん、自社のアピールポイントを明確にして交渉する必要があります。また債務や信用保証など買収上のリスクになるものを、できるだけ整理することが必要です。

デメリット②従業員の離職

会社買収を売り手の企業の全関係者が希望することはほぼあり得ません。特に従業員は、自分の会社が売却される事実そのものに不安を持ったり、買収後に新しい経営者になじめなかったりして離職を選ぶリスクがあります。従業員の離職は、買収後のシナジーを大きく損じるものなので、買い手企業とも協力して従業員の就業意欲の喚起を図る必要があります。

デメリット③本来業務の停滞

会社買収に至るまでに、売り手側の経営者はM&Aにかかわる資料の準備や交渉など、本来業務以外の負担が増えることになります。買収にかかわる負担が影響して本業に身が入らず、業績が落ちたり社内に不安が広がったりすればM&Aそのものがブレイクしかねません。また取引先にも契約継続などの不安が広がり、業務に影響することも考えられます。必要に応じて従業員と協力したり、取引先に説明したりすることは大切です。

デメリット④買収後の経営への不満

買収後は買い手企業が経営権を掌握します。しかし売り手企業はそのまま事業を継続しているので、思わぬ経営方針の変更などがあると、売り手企業側に不満が生じて事業経営に支障をきたす可能性があります。売り手としては、買収後の事業運営等について、はっきりと方針を示し理解してもらう必要があります。

買い手側のデメリット

買い手側のデメリットとしては、買収後の経営に悪影響を及ぼすものが考えられます。主なものを4つ挙げます。

デメリット①買収後のリスク発覚

会社買収においてはデューデリジェンスを徹底し、売り手企業の健全性を十分に把握すべきです。しかし買収後、実際に経営にあたってみて初めて簿外債務などのリスクが発覚することも少なくありません。後悔先に立たずで、このリスクはそのまま買い手側の負債となってしまいます。デューデリジェンスは専門家のサポートを受け、あらゆるリスクを想定してあたる必要があります。

デメリット②キーパーソンの離職

会社買収では事業のノウハウなどを持ったキーパーソンを獲得できることも大きな魅力です。ところが買収後の経営に対する不満や人間関係などが原因で、頼りにしていた人材が離職してしまうことがあります。こうなると目論んでいた事業展開そのものに影響しかねません。こうしたことを避けるためにも、キーパーソンを含む従業員の就業継続の意思をしっかり確認し、その意思を損ねないよう経営方針等を提示していくことが大切です。

デメリット③PMIの失敗

買収後は、新しい経営陣のもと、グループ企業としてのPMI(経営統合)を着実に進めなければなりません。しかし、買収前の計画が不十分であったり、売り手企業側の要望などを十分に織り込んでいなかったりして、PMIがうまく行かず、経営そのものが不振に陥ることがあります。企業風土や企業文化のすり合わせを含む綿密なPMIの計画を準備しておくことは、買収後の順調な事業経営のためにも重要です。

デメリット④シナジー効果の不調

買収後は子会社化した売り手企業を含むグループとして、新たな事業に取り組んだり、販路を拡大したりとシナジー効果に期待をふくらませるものです。ところが経営そのものは進んでいるのに、そうした効果が思ったほど得られないことはよくあることです。このシナジーに過度の期待を持っていた場合、予定していた費用対効果が得られずM&Aそのものが不調だったと評価せざるを得なくなります。シナジー効果に頼り過ぎない買収後の経営計画を持っておくことが肝要です。

会社買収の流れ・手続き

会社買収の流れ・手続き

買収もM&Aの一つですから、その流れや手続きはM&A一般のものと大きくは変わりません。ここでは9つの段階に分けて、注意する点も含めて解説します。

1.目的、戦略の立案

M&Aにおいてその成否を握るのは、何のために、どんな相手と、どのように実施するか、という青写真をはっきりと持つことです。目的が曖昧だと、そもそもM&Aが適切な手段かさえ判断できません。相手や方法を選ぶことは、目的を達成するためのM&Aの戦略として最も重要なものです。

2.M&Aアドバイザーへの依頼、プラットフォーム登録

買収を進めることは、高度な経営知識や法務上の手続きなど実務のノウハウを必要とします。交渉の段階ごとに、そのつど適任者を選ぶことは人脈的にも実務的にも困難です。こうしたことをしっかりコーディネートしながら適切な助言を得られるという意味で、M&A仲介会社などのアドバイザーに依頼するのが最善といえます。同時に相手企業とのマッチングを進めるために、対象企業を広く求められるM&Aプラットフォームへの登録も検討しましょう。仲介会社によって得意とする分野や報酬体系も違いますので、目的や戦略に合致した会社やプラットフォームを選ぶことも重要です。

3.M&Aの相手の選定

M&Aの相手の選定では、アドバイザーを介しながら、買い手、売り手双方からのアプローチがあり得ます。

買い手が明確な要望を持っている場合は、プラットフォーム等で目星をつけた企業からさらにアドバイザーが「ショートリスト」として数社をリストアップします。この中から実施の可能性やシナジーなどを考えて優先順位を付けて打診をすることになります。

売り手側が案件を持ち込む場合「ノンネームシート」と呼ばれる、社名が特定できない形で企業概要を提示する資料を準備します。買い手側が興味を持った場合、秘密保持契約を締結したうえで「インフォメーションメモランダム」と呼ばれる、より具体的な資料を提示し、交渉の可否を判断してもらうようになります。

4.トップの面談、条件交渉

M&Aの相手が決まると、双方相手企業について簡易的なリサーチを済ませた上で、トップ同士の面談が行われます。ここで、企業概要の確認、M&Aの基本理念を確かめ合い、いよいよ具体的な条件交渉に入ります。買収価額の目安、買収後の従業員等の待遇や買収スキームの合意など、お互いの要望を出し合いながら、相反する部分での妥協を進めて妥結可能な条件を探っていきます。

5.基本合意書の取り交わし

条件交渉で妥結点が見出だせたら、その基本的な条件や守秘義務、独占交渉権、法的拘束力やスケジュールなどを明記した基本合意書(LOI)を取り交わします。独占交渉権は特に重要で、売り手が複数企業と交渉して翻意するリスクを避け、買い手側が進めるデューデリジェンス等の費用が無駄にならないようにできます。基本合意書は必須の手続きではないのですが、この後のプロセスの円滑化のためにも作成することが望ましいものです。

6.デューデリジェンス

買い手側は最終契約に向けて、売り手企業のデューデリジェンスを行います。デューデリジェンスは財務、法務はもちろん、経営、税務、リスク管理など広範な内容にわたります。これによって、買い手側は、簿外債務や訴訟の発覚などの買収後の想定外のリスクを避けられます。デューデリジェンスは高度に専門的なノウハウを要しますので、専門家の協力は欠かせません。M&A仲介会社と相談して適切な人材を得ることも重要です。

7.バリュエーション

バリュエーションは、最終的な買収価額を決めるうえでの指標となる、客観的な売り手の企業価値を求める作業です。収益力をもとに評価する「インカムアプローチ」、市場の株価をもとに評価する「マーケットアプローチ」、純資産をもとに評価する「コストアプローチ」の3つの方法があります。できるだけ複数の方法を併用して、より客観性の高い数値を算出することが重要です。

8.最終契約書の締結

デューデリジェンスの結果やバリュエーションの数値をもとに、最終的な買収価額を協議します。従業員の処遇や法務リスクへの対応など条件面での交渉も詰めていくことになります。最終的に妥結された条件で、最終契約書(DA、買収の場合は株式譲渡契約書や事業譲渡契約書)を締結します。買収価額、表明保証、補償や解除条項までを含む契約書は法的拘束力を持ち、M&A実施の義務を相互に負うことになります。

9.クロージング

最終契約書の内容に従って、株式や事業の譲渡や対価の支払いを行うことをクロージングといいます。具体的な内容はスキームによって異なりますが、株式譲渡なら株券の引渡しまたは株主名簿の書き換えと対価の決済、事業譲渡なら資産や負債、契約関係の移転の手続きと対価の決済などのようになります。これによってM&Aは完了となります。

会社売却価格の計算方法

会社売却価格の計算方法

買収の流れの中でも触れましたが、売却価額は売り手の企業価値を算定するバリュエーションに基づいて決められていきます。ここでは代表的なものを3つ紹介します。

インカムアプローチで代表的なのは、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法です。売り手企業の事業計画などをもとに将来のフリーキャッシュフローを推定し、これを現在価値から見た割引率を適用して修正し、現在株価を算定する方法です。将来性が考慮され、過去の実績の少ないスタートアップ企業などに有利に働く考え方です。

マーケットアプローチで代表的なのは、類似会社比較法(マルチブル)でしょう。売り手企業と類似した上場企業の評価倍率を適用して企業評価を算定します。具体的には類似企業の純資産、利益やEBITDAなどの財務指標をもとに倍率を算出し、売り手の純利益や純資産等にこれを乗じて企業価値を求めます。類似企業というサンプルがあるので、比較的客観性が高いと考えられます。

コストアプローチではのれん付きの時価純資産法がよく用いられます。時価純資産とは企業が持つ時価の資産額から時価の負債額を減じた金額です。企業にはそのブランド力や人的リソース、販売網などの無形の資産があり、こうした超過収益力をのれんといいます。時価純資産に、こののれんの価値を合わせて企業価値として算定する方法です。ブランド力の強い実績のある企業が有利になる考え方です。

会社買収で発生する費用

会社買収で発生する費用

会社買収には多額の費用がかかります。買収そのものに関わる費用はもちろんですが、M&Aを進めるための経費も見過ごせません。

買収価額は最も大きな費用です。交渉によって定まるため事前には明示されませんが、費用対効果の観点から自ずから上限は決まってきます。株式譲渡の場合は原則現金ですので、資金調達もしっかり計画しておく必要があります。

次にM&A仲介会社などへの手数料がかかります。会社によって支払い方法はさまざまです。着手金がある場合や中間報酬があるもの、完全成功報酬制を採っている場合もあります。手数料は一般的に買収価額の数%で設定されますので、大きな案件ほどこの費用も巨額になります。

同じく専門家への報酬として、デューデリジェンスの費用があります。売り手企業の現況をつぶさにとらえる意味で、弁護士や税理士など多くの専門家が関わって調査を行いますので、それぞれに支払う依頼費用が必要になります。

買収に関わって社内でチーム体制などを組めば、そこでも人件費はかかってきます。その他事務経費や手続きにかかわる手数料なども必要になることを忘れないようにしましょう。

会社買収された会社に起こる変化

会社買収された会社に起こる変化

会社買収をされた売り手企業は、原則的に子会社化されます。別な企業グループに入るわけですから、何も変わらずに続くことはあり得ません。主に5つの変化があります。

1.人事制度

PMI(経営統合)において、グループ間で制度を一元化するため人事に関しても統合が行われます。その際は従業員との個別の合意が必要で、1~2年ほどかけて順次移行する場合が多く見られます。売り手企業に不利な人事制度の変更は「労働者の不利益変更」として法的なリスクとなりかねないので、慎重な対応が必要です。

2.従業員

上記の通り従業員の待遇は原則的には変わりません。ただし事業譲渡による買収の場合、従業員は買収後に改めて雇用契約を承継することになります。場合によっては労働条件等に変更を伴います。株式譲渡の場合は売り手企業の雇用契約がそのまま継続しますので、当面の変更はありません。しかしPMIの過程で給与条件などが変更になる可能性はあります。

3.役員

売り手側の非常勤役員は、一般的には買収後に退任します。非常勤役員は実態を伴っていない場合が多いからです。常勤役員は売り手企業の状況を把握していることから、買収後も職にとどまるよう求められることが多くあります。しかしそうして残存したとしても、役員報酬や退職慰労金等は株主総会の決定事項ですので、減額など待遇が悪化する可能性はあります。

4.福利厚生

一般的には買い手企業側の制度に一元化されます。売り手側の従業員は福利厚生の面での待遇変更はあると思っておくほうがよいでしょう。

5.社風

企業文化や風土が違う企業の傘下に入るわけですから、会社の雰囲気や企業文化としての社風は変わる場合が多いです。環境の変化に順応する努力が必要です。

会社買収を行う際の注意点

会社買収を行う際の注意点

会社買収は、事業を飛躍的に拡大するターニングポイントとなり得る取り組みです。失敗は許されませんので、事前に注意しておくことを挙げます。

小規模企業を買収する場合は、買収後の経営計画や事業の現況を特にしっかり把握しておきましょう。規模が小さいだけに、大きな負債などがあれば経営を回復させるのは困難です。また従業員は家族的な雰囲気の場合が多いので、特に心理面の把握を十分に行い、信頼関係を築くことが重要です。

企業文化や風土が大きく異なる企業を買収する場合、買収後にその違いになじめず大量の離職者が出るリスクがあります。赤字会社の買収で繰越欠損金を利用しようと考えている場合、2割以上の離職者が出ると繰越欠損金が消滅してしまい目的は果たせなくなります。

不透明な経営の企業を買収する場合、簿外債務などの顕在化していないリスクに特に注意が必要です。他社への連帯保証や税金未納などが後からでてくるケースが見られます。買収後にこうしたことが発覚すると、買い手側に支払い義務が発生してしまいます。

会社買収を成功させるポイント

会社買収を成功させるポイント

M&Aの成功率は5割以下といわれます。なんとなく仲介会社任せで進めてどうにかなるようなものではありません。M&Aの失敗は事業拡大ができなくなるだけでなく、経費によって多額の損失も背負いかねません。成功のポイントを挙げてみましょう。

まずシナジー効果が得られるかどうかを見極めましょう。関連商品販売などによる売上シナジー、生産統合などによるコストシナジー、グループとしての信用増大による借入金の縮減などの財務シナジーなどが考えられます。

規模が大きすぎる企業や事業の買収は、失敗した場合の損失が大きく、買収に成功しても従業員等が多いだけにPMIの難易度が高くなります。一般的に、自社の3割程度の企業を売り手として求めるのが望ましいと考えられています。

売り手企業のさまざまなリスクを回避するには、デューデリジェンスを徹底することが最善です。必要以上に高い買収価額になってしまったり、思わぬ債務を引き継いでしまったりする事態を避けるために、手間を惜しんではいけません。

買収後のPMIをしっかり計画しておきましょう。一般的に統合方針を決め、ランディングプラン(3~6カ月程度の実施計画)や100日プラン(中期的な経営課題の把握と対応)を策定して実施します。PMIの定量的な目標値(KPI)を用いて、常に進捗を評価することが肝要です。

会社買収の事例

会社買収の事例

実際に会社買収がどのように行われるのかを知ることはとても良いケーススタディになります。3つの事例を紹介します。

セブン&アイHD

2020年8月3日、セブン&アイHDは、ガソリンスタンド併設のコンビニを運営していたスピードウェイ(運営会社MPC社)を、株式及び持分を取得する形で2.2兆円の巨費を投じて買収しました。

この買収でセブン&アイHDは米国トップシェアとなる主要47都市の店舗網を手に入れ、営業利益を2019年比で2倍以上にするといわれています。さらに4.8~5.8億ドルの財務シナジーや15事業年度にわたる約30億ドルの節税効果が見込まれています。

コンビニ事業の拡大という目的ばかりでなく、巨額のシナジーを得た買収の成功例です。

任天堂

2021年1月5日、任天堂は、カナダのゲーム開発会社ネクスト・レベル・ゲームズ(NLG)の全株式を取得して子会社化する買収を行いました。報道では数十億規模の買収といわれています。

NLGは任天堂のゲーム機向けのソフトウェア開発にあたってきた会社で、そのノウハウと人材を手に入れ、ソフトウェアの開発のスピードと質の向上を目指したものでした。

他社の高性能ゲーム機の開発や、クラウド上でのゲームアプリの提供など、加熱するゲーム市場において、事業強化を図る必要があると判断しての買収でした。

コロワイド

コロワイドは、2019年10月、大戸屋の株式19%弱を創業者から取得したのをきっかけに、同社に友好的買収を持ちかけました。しかし大戸屋はこれに応じず、コロワイドは7月にTOBを宣言、敵対的買収に移行しました。大戸屋の猛反発にもかかわらず、1株あたり3,081円、約61億円を投じたTOBは成功、全株式の46.77%(約200万株)を取得された大戸屋はコロワイドのグループ傘下に入ることになりました。

日本国内では珍しい、本格的な敵対的TOBによる買収の事例です。

会社買収・M&A相談ならウィルゲートM&A

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会社買収 まとめ

会社買収 まとめ

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