【2022年】IT業界のM&A動向・事例・売却相場を解説

【2022年】IT業界のM&A動向・事例・売却相場を解説
この記事の監修:M&A専門家
四辻 弘樹
S M B C日興証券・みずほ証券の投資銀行部においてM&A、ファイナンス、I P O等に携わる。その後は上場企業のテモナにおいてCSOとして事業戦略、M&A、新規事業開発に従事。現在はM&Aアドバイザリーの他、資金調達支援、IPO支援に加えCFOとしての活動。

活況の続くIT業界ですが、人口減による人材不足も叫ばれています。

効率的な解決策としてM&Aを締結する企業もあれば、ロボットとの共生実現に向けて業務提携した会社もあります。

この記事では、IT業界のM&A動向やさまざまな事例や相場について解説します。

IT業界の概要

IT業界の概要

幻影であったかのようなバブル以降、順調な伸びを見せているのはIT業界だけといっても過言ではないでしょう。それどころか、自然災害による交通・通信遮断への対策や人口減、コロナによる巣ごもり需要など、時代背景が追い風にさえなっているようです。

生活のほとんどをIT抜きには語れない時代になりつつありながら、ITについて語ることはなかなかありません。IT業界とはどんな業界で、これからどのような世界をもたらしてくれるのでしょう。

IT業界において盛んに行われるM&Aは、絶えず変容していく時代を生き抜く企業の成長戦略のひとつ。さまざまなビジネスモデルが生まれています。

IT業界とは?

ITとはInformation Technologyの頭文字を取った略語であり、情報技術を総称するときに用いられる言葉です。情報技術とは、情報の伝達や受理、加工などの科学技術であり、デバイスのみならず情報処理技術も含みます。

近年では、モノのインターネットといわれるIoT(Internet of Thing)や情報通信技術としてのICT(Information and Communication Technology)など、技術の発展と共に派生した言葉が増えています。つまるところIT業界とは、IotもICTも含み、情報に関わる科学技術全般を扱う業界といい表せるでしょう。

IT業界の市場規模や市場動向

総務書や経済産業省の分類では情報サービス業に分類されるIT業界。リサーチ対象によって数値は異なりますが、右肩上がりで推移していることに間違いはありません。2018年の総務省の分析によると、その市場規模は99.8兆円にも上り、全業界の10%という報告がなされています。

1990年代、バブル後から急激な伸びを見せたのがIT業界です。度重なる自然災害やリーマンショックなどを経ても上昇傾向は続きます。それどころかコロナ禍によるテレワークや巣ごもり需要、5Gの普及によりさらなる拍車がかかりそうな気配です。197社の主要企業を対象とした調べでは2020年から2021年にかけての売上高総計は16兆4,016億円となり、過去3年間に比較した成長率が2.5%の上昇。消費税増税やコロナ禍で他業種が伸び悩む中、順調な推移といえるでしょう。

また、近年増えているのがITと他業種との融合です。より良い暮らしづくりのための企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)も活発化し、ITへの需要はいっそうの高まりを見せています。

IT業界のビジネスモデル

ビジネスモデルとは、事業運営の根幹を為すものであり、収益を上げるための仕組みと定義付けられています。比較的M&Aの多いIT業界には多様なビジネスモデルが生まれ、今なお新しい道を切り開きつつあります。コロナ巣ごもりでいっそう需要の増えたeコマースやリスティングに代表される広告業、サービスの消費ニーズに応じて課金していくフリーミアムモデルなど実に多彩です。消費者同士を繋ぐプラットフォームを提供するC to Cなども代表的なビジネスモデルとして上げられます。

IT業界の一例

IT業界において近年もっとも勢いのあるのがeコマースと呼ばれる業種です。通販業界のことであり、Amazonや楽天、ZOZOTOWNなどが代表例として挙げられます。

基本的にはオフラインの小売店と同じ構造で利益を獲得します。楽天のようにクレジットや金融機関まで網羅した商業世界を形成している場合や、ZOZOTOWNのようにジャンルを特化することで差別化を図るなど、それぞれに異なる部分で勝負していることも成長している理由でしょう。

eコマースとは、electronic commerceの頭文字から取った略語で、直訳すると「電子商取引」、つまりネット通販です。ビジネスモデルとしては実店舗を持つオフラインでの取引と変わりませんが、店舗もスタッフも必要ないため効率よく採算性のよい取引ができます。

普及から20年以上を経過し、物品だけでなく旅行や飲食店の予約、チケット購入など取引商品も格段に増えています。

eコマースにおけるBtoC(企業と一般消費者の取引)は増加傾向にあり、2018年は17兆9,845億円と前年比8.96%の伸びを示しました。BtoB(企業と企業の取引)やフリマアプリなどによるCtoC(個人間取引)も拡大の一途を辿り、IT業界を代表するビジネスモデルとなっています。

IT業界のM&A最新動向

IT業界のM&A最新動向

多くの業界がダメージを受けたコロナ禍でさえ利益を伸ばしているIT業界。スマートフォンの普及やデジタル庁の発足とテレワークの推進、5Gの拡大などは、まさにIT業界のためにあるような政策ともいえるでしょう。

経済産業省推進による、より良い暮らしのためのDX(デジタルトランスフォーメーション)も活発化しており、ITへの需要が途切れることはありません。

コロナは書類の押印や通勤通学の意味を問い直し、働き方や教育現場の現状にさまざまな問題提起をしました。どのような働き方が可能なのか、学校とは何であり移動する意味は何なのかなど、模索しながらも個々のより良い暮らしのために社会全体のIT化が進んでいます。

少子高齢化による人口減は労働人口の減少であり、人手不足を補うためのIT化も加速せざるを得ない状態です。

人材不足の現況打破

経済産業省の調査によると、2016年時点でのIT企業および一般企業のIT部門に所属する人材数は約90万人。すでに17万人不足しているとの調査結果が出ています。

さらに2019年をピークに人材供給は減少。とくに情報セキュリティ部門での人材不足は深刻で2020年には20万人に達すると報告されています。IT技術先端を担う人材も2020年に48,000人が不足。人材育成が急務です。

IT人材不足への対策としては、多様な人材の活躍促進、流動的な人材配置、人材のスキルアップ支援強化、IT人材の処遇やキャリアなど、業界全体の魅力向上に努めるなどが推進されています。

IT業界でM&Aが盛んに行われるのは、これらの対策を実現し人材不足をカバーすることも理由のひとつです。

DX時代への備え

老朽化したシステムの刷新やAIの導入とテレワークなどIT需要の高まりはいっそう続くと予想されます。企業によるDXへの取り組みはますます活性化するでしょう。

2020年4月、国内シェア1位の富士通は本格化するDX時代に備え「Ridgelinez」を設立します。他社も追随する動きを見せ、DXが一種のトレンドになりつつあり、多様で複合的なサービス提供のための企業同士による融合や事業提携も視野に入れておかなければなりません。IT企業による、異業種へのM&Aが増えると予測されます。

IT企業をM&A・買収・売却するメリット

IT企業をM&A・買収・売却するメリット

さまざまなビジネスモデルを構築し、さらなる発展を遂げるIT業界。M&Aが頻繁に行われているのが現状です。斬新なサービスを提供するベンチャー企業に大手が出資する例は少なくありません。IT業界の経営者は若く柔軟な思考の経営者が多く、M&Aによる事業戦略を抵抗なく受け入れる傾向にあります。優秀な人材の確保と多様なサービスの提供、大手傘下になることの安定や中小同士の資本提携による競争力強化などメリットは計りしれません。

買い手側のメリット

買い手企業の最大のメリットは人材不足の解消と新しい技術の導入です。生活インフラは人口減に反比例するかのように利便性を求め、あらゆる場面にITを必要としています。2030年には、IT人材が79.8万人不足するとの予測も発表されています。

需要の高まるIT業界においては、ITの知識・ノウハウを持った人材の獲得が最優先課題といえるでしょう。とくにプログラムマネージャーやシステムエンジニアなど、専門的知識のある人材不足は深刻です。

企業によっては、高度なITスキルを持つ技術者の獲得を目的にM&Aを行う場合も少なくありません。今後も、優秀な人材を巡ってM&Aによる獲得競争が活発化する可能性があります。

人材の獲得と共にもたらされるメリットが新技術の導入です。AIを利用したサービスやIot製品の需要拡大に伴うIT環境の変化に対応するためには、常に最先端の技術を保持しておく必要があります。

IT業界には、斬新な技術やサービスのベンチャー企業が少なくありません。これらの新しい技術やソフトウェアの開発に時間や労力をかけず、瞬時に取り込めるのはM&Aならではのメリットです。市場がさらなる拡がりを見せ、スピーディーな事業拡大ができることはいうまでもありません。

売り手のメリット

売り手企業のメリットは事業の存続と競争力の強化が図れることです。

IT業界の仕事は、日立製作所や野村総研、大塚商会などの大手SIer(エスアイヤー、以下SIer)から、段階的に中小企業へ発注される仕組みになっています。

SIerとは、システムインテグレーターとも呼ばれ、システム構築に関わるシステムの企画や設計、運用などシステム開発に関するすべての業務を引き受ける企業のことです。コンサルティング業務をメインとし、クライアントからの依頼によってシステムの企画構築、運用を行います。

こうしたSIerによる仕事の段階的発注構造は、末端の下請け企業にとって大きな利益を見込めないものとなり競争力も低下してしまいます。競争力の低下がさらなる利益低下を招くのはいうまでもありません。経営の疲弊を避けるため、競争力の低い中小企業同士がM&Aにより事業提携し、競争力強化を図るケースが増えるのは自然な流れといえるでしょう。

また、大手SIer傘下となることで事業存続を図る会社も少なくはありません。

IT企業の売却金額の相場

IT企業の売却金額の相場

M&Aには、経営権を含めて会社を丸ごと売却する会社売却と、経営権を残しつつ一部、あるいはすべての事業を売却する事業譲渡があります。

会社売却は会社の事業用資産はもちろん、人材や技術、ノウハウといった無形資産と経営権などすべてを含めた価格に将来性や市場の成長性、希少性などを加味して価格決定されるのが一般的です。売却益はオーナーや株主個人のものとなります。

一方の事業譲渡の場合、事業に関する純資産に営業利益を加味する方法などがとられますが、売却する範囲が狭いので株式譲渡より低い売却価格になることは避けられません。経営権が残り、売却益が会社の利益になることはメリットといえるでしょう。

IT企業の売却価格は企業規模や売り上げによって異なるので相場をひと括りにはできません。大まかには、時価の純資産額に3年分の利益を加算した価格を売却の相場とします。さらに精度の高い売却価格を算定するには、純資産法、類似会社比較法、DCF法の3つの方法があります。

純資産法とは?

純資産法はコストアプローチとも呼ばれ、もっとも使用頻度の高い価格算定方法です。会社の帳簿で確認できる資産を売却価格とするため、計算が容易であり客観性を持つメリットがあります。反面、帳簿に記載されない含み益や含み損を反映できない点がデメリットです。

このデメリットを補い、時価を反映させる方法が修正純資産法です。帳簿上の資産と負債を時価で再評価し、得られた数値を発行済みの株式数で割ることにより1株当たりの純資産価値を算出します。場合によっては、のれんやブランド力などの無形資産を加味したり、3年分の営業利益をプラスしたりすることもあります。

類似会社比較法とは?

類似会社比較法とは読んで字のごとく、事業内容や規模の似通った会社と比較して売却価格を算定する方法です。具体的には、比較する企業の株価に経営指標を当てはめて、売り手の株価を計算します。経営指標としてはEBITDAやPBRが用いられます。

EBITDAとは税引前の利益に支払利息と減価償却費を加えたものをいい、PBRは株価純資産倍率とも呼ばれ、株価が純資産に対してどのくらいの倍率で買われているかを示します。いずれも極めて客観性の高い指標のため、わかりやすく、のれんやブランド力などが反映されやすいといえるでしょう。

ただし、比較対象の企業が少ない場合には算定しにくくなるデメリットがあります。

DCF法とは?

インカムアプローチとも呼ばれ、ディスカウント・キャッシュ・フローの略語です。DCF法では、売却企業の将来的に見込まれる収益(キャッシュフロー)を現在価値に換算して企業価値を算定します。将来のキャッシュフローを基準とするため、事業計画書の提出が大前提となります。

のれんやブランド力、将来性などの無形資産を反映できる点がメリットです。もっとも正確に企業価値を算定できる方法ともいわれますが、事業計画書に主観が入ると客観性に欠けてしまうデメリットがあります。

DCF法は計算方法が複雑なため、会計士やM&Aアドバイザーのいる金融機関、M&A仲介会社などに相談することをおすすめします。

IT企業の買収を成功させるポイント

IT企業の買収を成功させるポイント

時代はまさにIT業界のためにあるとはいえ、M&A買収には多額の資金を必要とするため、さまざまなリスクを考慮しておかなければなりません。買収が成功か失敗かの判断には長い時間を要することもありますが、成功に導くためのいくつかのポイントは押さえておく必要があります。

まずは明確なビジョンも持つことが大切です。これによって直近の些細なリスクに泰然と身構えることが可能になります。そして、情報収集を徹底すること、現実的な評価をすることで成功への道は開かれていくでしょう。

明確なビジョンを持つ

企業によるDX戦略が増し、異業種間のM&Aが盛んに行われています。大手建設会社や飲食業を展開する企業がIT企業を買収するケースも多く、逆にIT企業が運送業などを買収した例も見受けられます。

異業種間のM&Aは文化の違いが明白なため、さまざまな困難がつきまといます。畑違いだからと、お任せの丸投げでは成功するのは難しいでしょう。失敗例の多くが、持ち込まれた案件への安易な同意、価格優先での成立によるものです。明確なビジョンなくして成長はあり得ません。

これらの困難を解消し、M&Aの買収を成功させる第一のポイントは明確なビジョンを持つことです。企業として、まずはどうしたいのか、そして何を獲得し、誰に喜んでもらいたいのか、を明確にする必要があります。

企業経営者として、その延長線上に導かれる目的が規模の拡大と利益の追及・シナジーのある事業の獲得・新規事業への参入、そして多角化による安定となることを忘れてはなりません。

徹底した情報収集

明確なビジョンを立てても目的に合致する企業が現れないと、妥協してしまう可能性もあります。目的に合致する企業が現れるまで根気よく情報収集するか、期限を設けて妥協するか諦めるかの選択になるでしょう。独自のコミュニティを持ち情報収集に長けたIT企業なら直接交渉も選択肢のひとつ。事実、直接交渉による成功事例も決して少なくはありません。

とはいえ、幅広く徹底した情報収集が必要です。やむを得ず折り合いを付けなければならない場合も、買収する企業への情報収集は欠かせません。

バリュエーションとデューデリジェンスを徹底し、M&A契約成立後に簿外債務が発覚したりトラブルが発生したりしないよう、金融機関や士業、M&A仲介会社など交渉に長けたプロに相談することも視野に入れておきましょう。

現実的なシナジーの評価

IT企業同士や同じような業務に携わっている企業とのM&Aであれば、シナジーを想像することはそう難しいことではないでしょう。

しかしながらDXを目指す異業種間のM&Aも盛んに行われている昨今、他業種とのシナジーを想像することは容易でありません。たとえ想像できたとしても実現するかどうかは未知数。現実性のあるシナジーへの評価が必要です。買収による顧客増がそのまま利益となり、技術の融合と販売コストの削減で収益性も上がると想像するのは安易といえるでしょう。

現実性のあるシナジーとは、リスクマネジメントができること。統合によるスイッチング・コスト(顧客が他の製品やサービスに乗り換えたときに発生するコスト)も想定しておく必要があります。時流にも大いに影響されるため、慎重な判断が大切です。

IT企業の売却を成功させるポイント

IT企業の売却を成功させるポイント

売り手企業にとってのM&A成功とは、適切な価格で買ってもらうことでしょう。となると、できるだけ高く売れるに越したことはありません。そのために大切なことは、価値のある無形資産を持つこと、売るタイミングを見計らうこと、シナジーの見込める複数の企業に打診することです。

無形資産を持つ

無形資産とは技術やブランド力、人材や顧客、取引先など、市場価格を参考に計上することのできない資産をいいます。買い手企業にとっては、大いなる可能性を秘めた魅力的な資産であり、高い評価をするケースが珍しくありません。シナジーと並ぶM&Aの目玉商品といえるでしょう。

売るタイミングを逸しない

あらゆる価値は社会情勢によって変わっていくものです。経済の動向を見極めたM&Aをおすすめします。会社の業績が好調なときは手放したくないものですが、好調であればこそ高く売れるもの。高く売れそうなタイミングを見計らってM&Aを打診することをおすすめします。タイミングを逸することのない決断が必要です。

IT企業をM&Aする際の注意点

IT企業をM&Aする際の注意点

IT関連企業は比較的歴史が浅く中小であるケースが多く見られます。したがって、システムが未完成であったり、資料が揃わなかったりして企業として適切な評価が難しい場合もあります。また、株式上場していない会社が少なくないため、株券の紛失や未発行といった問題が生じる可能性も否定できません。柔軟な対応が求められます。

何より大切なのは従業員への対応です。M&A成立後の人材流出を防ぐことはもちろん、交渉過程での安易な報告が情報漏洩につながることも想定する必要があります。

本来、売り手企業と買い手企業の双方にとって大きなメリットのあるべきM&A。成功のためには慎重の上にも慎重を重ねることが大切です。

不揃いの資料とシステムの未完成

会社としての歴史が浅いと、システムやコンプライアンスが整っていなかったり、監査資料が不足したりすることも少なくありません。バリュエーションとデューデリジェンを徹底できないデメリットがあり、M&A成立後に簿外債務が発覚する可能性もあります。代替の資料で補える場合もあるので、専門家に相談することをおすすめします。

システムやコンプライアンスの違いは、異なる企業であるがゆえの文化の違い、時間をかけて融合させていくものと割り切る寛容さも必要です。

株式の問題

上場企業の株式譲渡は無制限ですが、上場していない中小の企業は「譲渡制限会社」であるケースも珍しくありません。「譲渡制限会社」とは、株式の譲渡に制限を課せられている会社のことです。この場合、そのまま譲渡することはできないので、定款に定められた譲渡承認機関の承認を得る必要があります。

株券を紛失した場合、株券発行会社に請求すれば喪失登録日から1年後に再発行されます。未発行なら、株券不所持の申請、もしくは株券不発行会社へ移行することで対応できます。

デューデリジェンスの徹底

M&Aの成功にはデューデリジェンスの徹底が不可欠です。ビジネス部門や人事部門それぞれのデューデリジェンスがありますが、もっとも重要なのは財務や税務関連のデューデリジェンスです。

決算書をさまざまな観点から分析検証し、売り手企業の収益性や成長性、安全性を推し量ります。隠れ負債や簿外債務の調査を行い、起こり得るM&A成立後のリスクを可能な範囲洗い出していく作業です。

デューデリジェンスには、膨大な手間と費用がかかるため、中小企業同士のM&Aにおいては軽視されがちです。情報収集に長けたIT企業なら、自社でデューデリジェンスを行うこともあるでしょう。

けれども、情報収集力と財務・税務の専門性とは別物です。税務や会計・ファイナンスへの高度な知識を持つ専門家に任せるのが妥当です。金融機関や税理士・会計士などの士業、IT業界に精通したM&A仲介会社への相談をおすすめします。

IT業界のM&A事例10選

IT業界のM&A事例10選

DXがトレンドとなり、成長戦略としての異業種間のM&Aが頻繁に行われるようになってきました。とくにコロナ以降のM&Aは頻度を増しています。国内外問わず、IT業界とひと括りにできないようなフレキシブルな状態です。

完全子会社化や連結子会社化、事業譲渡など、さまざまな形でのM&Aが成立しています。注目すべきは、いずれの場合も事業拡大と成長へのステップと、売り手企業と買い手企業の両方の経営者が明言していることです。ここが他業界とIT業界との違いともいえます。比較的若く、柔軟な経営者の多いとされるIT業界は絶えず上昇傾向にあります。

「デクセリアルズ」が「京都セミコンダクター」を連結子会社化

2022年2月1日、デクセリアルズが日本政索投資銀行と共同で京都セミコンダクターの株式を取得し、子会社化したことが発表されました。取得価額はアドバイザリー費用を含めておよそ88億円。議決権の所有割合はデクセリアルズが81.1%、日本政策投資銀行が残りの18.9%を取得し、京都セミコンダクターは連結子会社となります。

かつてはソニーグループの一員でもあったデクセリアルズ。電子部品や接合材料、光学材料などを製造・販売する会社として躍進を続けています。一方の京都セミコンダクターは光半導体デバイスやモジュールの開発・製造・販売を行っている会社です。

市場成長の見込まれる高速通信分野やセンシングにおいて、デクセリアルズと京都セミコンダクターとの技術の融合は時代のニーズともいえるでしょう。新技術と新製品の開発も含めた、大いなるシナジーは社会全体の期待を背負います。

参考
https://www.nihon-ma.co.jp/news/20220217_4980-3/

「ノマディズム」が「日本デザイン」に事業譲渡

プログラムの研修事業を手掛けるノマディズムが日本デザインに事業譲渡したのは2020年1月のことです。初めの相談から半年に満たない期間でのM&A締結合意はかなりスピーディーといえます。売り手企業と買い手企業の相性はもちろん、M&A仲介会社の迅速な対応が功を奏した結果とも捉えられています。

ノマディズムは、デザインやプログラミングの研修など、スキルシェア事業を展開する企業として2017年に設立された会社です。一方の日本デザインもほぼ同業種。BtoBとBtoCを展開し、BtoBではデザインなどの企画から施策実施まで、BtoCではデザインのオンラインスクールを運営しています。

ノマディズムと日本デザインがスピーディーな合意に至った最大の理由が理念の合致。IT・Web領域の人材不足の解消と、所得格差、教育格差の是正には「スキルの普及が重要」であるという点で一致したことです。

ノマディズムにとっては事業拡大の選択肢のひとつとしてのM&Aであり、日本デザインとしても新規事業参入へのもっとも効率的な戦略としてのM&Aです。フレキシブルな発想の融合が、格差社会へ風穴を開けることが期待されます。

参考
https://ma-gate.com/japan-design/

「フューチャー」と「日本テクトシステムズ」の業務提携

フューチャーと日本テクトシステムズの業務提携が成立したのは2020年9月3日。社会や企業へのIT技術の浸透を主業務としてきたフューチャーと、ヘルスケアアプリなどの開発で認知症対策に取り組んできた日本テクトシステムズの提携は、日本国内の少子高齢化問題と世界の抱える問題である認知症対策への大いなる前進といえるでしょう。

フューチャーにとっては、ITコンサルティングとビジネスイノベーションの展開の延長上にあたり、日本テクトシステムズはこれまで取り組んできた技術の普及と開発力のさらなる向上を見込んでのM&Aとなります。

日本テクトの「SHINRIシリーズ」や「MRI-TAISEKI」によって得られるデータと、フューチャーのAI技術との組み合わせにより、治療可能な認知症の判別や病理分類を行い、認知症症状に関する予測AIアルゴリズムの開発を共同で進めていく模様です。

さらに、医療機関への有益な情報提供をする新サービスの展開、高齢者や認知症に対するプラットフォームの構築なども掲げています。

企業間のニーズが合致して成立した業務提携は社会のニーズそのものといっても過言ではありません。長く叫ばれてきた医療福祉業界の人材不足の解決と認知症対策のいっそうの前進など、将来的な期待の大きい資本提携といえます。

参考
https://www.ma-cp.com/news/8696.html

「SBIホールディングス」と「じもとホールディングス」の資本業務提携

じもとホールディングスは山形県と宮城県の地方銀行の経営統合によって生まれた企業。長く東北地方金融機関の要として地域経済を支えてきました。

しかしながら、歯止めのかからない人口減少とマイナス金利、追い打ちをかけるようなコロナショックによる経済停滞により、厳しい状況に置かれていたのも事実です。SBIホールディングスの得意とするITを駆使した金融サービス、Fintech技術の導入は、じもとホールディングスにとっての積年の課題でもありました。

資本業務提携が成立したのは2020年11月20日。じもとホールディングスによる第三者割当増資で、株式の17.34%をSBIホールディングスが保有することでの締結です。この提携によりSBIホールディングスは、じもとホールディングスへの本業支援を行うこととなりました。

具体的には、金融商品の提供やファンドの立ち上げ、運用資産の受諾などです。SBIホールディングスの洗練されたIT技術の導入により東北地方の隅々までサービスが行き届くことが期待されます。

参考
https://www.sbigroup.co.jp/news/2020/1120_12212.html

「ギフティ」と「KINCHAKU」の資本業務提携

2010年に設立されたギフティは、メールやLINEでプレゼントやメッセージを送るサービスを展開してきた企業です。一方のKINCHAKUは中小企業への販促やマーケティング業務を主として2018年に設立されました。

資本業務提携が成立したのは2020年5月20日。KINCHAKUの発行した第三者割当増資をギフティが受け入れる形で合意しました。

さまざまなものを繋ぐというコーポレートミッションのもと、幅広くeギフトサービスを提供してきたギフティにとって、KINCHAKUの提供するウォレットパスとのシステム連携は成長戦略の一環といえるでしょう。

ウォレット機能に対応したクーポンやポイントカードの発行から運用までの実行が可能になり、自社アプリやクラウドに統合できるようになりました。ライトユーザーの利便性も増し、さらなる価値の提供と流通の拡大、ウォレットでの連携が深まることが期待されます。

参考
https://giftee.co.jp/20200521newsrelease/

「メディアドゥ」と「VR法人HIKKY」との資本業務提携

2022年1月18日、メディアドゥとHIKKYのM&Aが締結されました。メディアドゥがHIKKYへ5億円出資しての資本業務提携です。

デジタルコンテンツの流通と配信、システム開発やメディアコンサルティング、出版社支援サービスなど幅広い事業を手掛けているメディアドゥと、世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」を始めとしたVRサービスを展開するHIKKYとの提携は、新たな時代の到来を予感させます。

ガラケー時代から電子書籍に着目し、さまざまな形で読書体験の創出と流通拡大に取り組んできたメディアドゥ。一方のHIKKYはエンターテインメントVRをけん引するクリエイターたちによって2018年に設立された新進気鋭の会社です。VR・AR領域での大型イベントの企画から制作・宣伝までを業務とし、パートナー企業との新規事業開発も担います。

メディアドゥにとって、HIKKYの持つメタバース技術との融合は読書体験の新領域への展開です。オンラインの仮想空間におけるIPの企画・調達を担いつつ、コンテンツへの新しい体験の創出に向けた研究開発を進めます。世界各国で人気の高い日本の漫画やアニメが、読書に留まらない新たな体験として世界中のファンの元へ届く日もそう遠くありません。

参考
https://mediado.jp/corporate/4737/

「FIG」とロボット事業の「匠」との提携

福岡県のロボットベンチャー企業の匠と、大分県を中心にIoT事業を手掛けるFIGの資本業務提携が発表されたのは2022年2月10日のことです。匠が3億円の第三者割当増資を実施し、FIGが引き受ける形で合意しました。企業間連携を深め、純国産ロボットの国内トップシェアを目指し、人口減などのさまざまな社会問題の解決に導いていくとのことです。

純国産の自律搬送ロボットの企業として提案から設計、製造販売、アフターまで一貫して手掛ける匠は2015年に設立されたベンチャー企業。一方のFIGは大分を拠点とするIoTと装置等関連事業を手掛けるグループ企業です。

匠のロボット技術とFIGの持つIoT技術やマシーン技術との融合は、双方の企業へのシナジーだけに留まらず、社会全体に大きなメリットを与えることでしょう。

物流社会の現代において、搬送ロボットの活躍は社会インフラのひとつと捉える匠の後藤社長。人とロボットとの協働・共生社会の実現によって世界の生産人口減少の問題を解決できると見込んでの資本業務提携です。

FIGの村井社長は、ロボット事業への集中投資により内閣府の提唱する未来社会のコンセプト「Society5.0」の実現を目指します。匠との資本業務提携がロボット事業の成長を加速させるのは間違いありません。労働人口減少への解決はもちろん、ロボットと人が共生する新たな未来社会への扉が開かれたといえます。

参考
https://www.lnews.jp/2022/02/o0214405.html

「QUICK」が「コウメイパートナーズ」を子会社化

2022年2月7日、金融情報サービスを提供するQUICKは株式取引執行システムを開発するコウメイパートナーズの全株式を取得。完全子会社化し、社名を同年3月1日より「QUICKトレーディングテクノロジーズ」とすると発表しました。

新会社では、証券会社が設備を持たなくてもサービスを利用できるSaaS型の「株式取引執行システム」や、SOR(Smart Order Routing)、アルゴリズムエンジンなどの自動発注ツールが提供され、顧客の業務に応じた柔軟な対応で高度化を支援していきます。

QUICKの情報インフラと顧客ネットワーク、機関投資家に向けたトレーディングソリュ―ジョンと、コウメイパートナーズの証券会社向けのソリューションや開発力との連携が、総合的なソリュ―ジョンへと拡充されることが期待されます。

コスト削減はもちろん、顧客ごとの要件定義からソフトウェアの開発、そしてファシリティの構築と運用までの一貫した体制作りによる業務効率化も見込まれます。

参考
https://corporate.quick.co.jp/2022/02/news/press/17166/

「エムスリー」がロシア企業の「MirVracha・LLC」を子会社化

日本で製薬会社向けの支援サービスやマーケティング事業を行うエムスリーが、ロシア国内で同様のサービスを提供しているMirVracha・LLC(以下、ミール・ブラチャー)を完全に子会社化したと発表したのは、2022年2月2日のことです。

これによりエムスリーがこれまで展開してきた、医師プラットフォームを活かした関連サービスの、ロシアへの普及が容易となり推進されることが予想されます。

エムスリーは「m3.com」という医療従事者専門サイトを運営し、製薬会社向けのマーケティングや治験の支援サービスを提供する企業。「m3.com」には、日本の医師の9割以上の30万人が登録しています。

一方のミール・ブラチャーはロシアの医師の約6割の40万人以上が登録する医療従事者専門サイト「ミール・ブラチャー」を運営し、製薬会社向けマーケティング支援サービスを提供。ロシア国内の多くの製薬会社の薬剤・疾患情報提供に寄与しています。

エムスリーとミール・ブラチャーが「MR君」サービスのライセンス契約を含む資本業務提携を結んだのは2012年のことです。以来、事業の起ち上げや運営ノウハウの支援など良好な関係を築いてきました。その延長上でのM&Aといえるでしょう。

エムスリーの、米国や欧州への海外展開での経験と培ってきたノウハウが、ミール・ブラチャーのロシアでのネットワークと融合しいっそう拡大されることでしょう。

参考
https://www.nihon-ma.co.jp/news/20220202_2413-17/

「エフ・コード」と「コミクス」との事業譲渡契約

エフ・コードがコミクスの事業譲渡を受諾締結したのは2022年2月1日。手許現預金の3億円での決済でした。この締結に伴い、エフ・コードはコミクスのEFO・CUBE、chroko、Butterfly、Growth・Hack・LTVの各事業を譲り受けることとなりました。

エフ・コードはデジタル顧客獲得支援サービスや育成支援サービスを、コミクスはデジタルマーケティング、SaaSやDXなどの支援事業を主な業務とする会社です。エフ・コードとしては、コミクスのSaaS事業が顧客への提供プロダクトおよびサービスの拡充に寄与し、CXデータの質量を増強できると見込んでのM&A締結です。

また、エフ・コードの展開してきたデジタルマーケティング事業やSaaS事業の知見を活用し、サービス間の相互補完やそれぞれの顧客への提供プロダクトとサービスの拡充を図ります。顧客満足度の向上と取引拡大など、大いなるシナジーが見込まれるM&Aの事例です。

参考
https://www.comix.co.jp/news/0201/

IT企業をM&A・譲渡する方法

IT企業をM&A・売買する方法

IT企業のM&Aの方法は厳密に分けると多数になりますが、使用頻度が高く代表的なのが株式譲渡と事業譲渡です。これに会社分割という方法が続きます。

株式譲渡とは、売り手企業の発行済み株式による譲渡をいい、会社の財産の一部、もしくはすべてを譲渡するのが事業譲渡です。事業譲渡は「特定承継」と呼ばれることもあります。そして、会社の権利の一部、あるいはすべてを他の会社に譲渡するのが会社分割です。

株式譲渡とは?

M&Aでもっとも多く使われる方法が株式譲渡です。売り手企業の株主が保有する株のすべて、もしくは一部を取得し、経営への参画や支配権を得ます。株式譲渡には、大株主から直接株を買い取る相対取引と、上場企業の株を証券取引所で買い入れる市場買付、不特定多数の株主から市場外で株式を買い集める購買買付(TOB)の3つの方法があります。

売り手企業としてのメリットは利益を最大化できることです。株主が個人の場合、分離課税により税率は20%に抑えられ、残りの80%が利益となります。事業譲渡における税率が50%前後であることと比較すると、株式譲渡でのM&Aが多い理由のひとつといえるでしょう。

買い手企業にとっては100%の株を取得することで支配権を得られることがメリットです。買収後のトラブルを抑えられます。

事業譲渡とは?

事業譲渡とは、ある目的のために組織化された財産の一部、もしくはすべてを譲渡する方法です。専門用語では「特定承継」と呼ばれます。株式譲渡や会社分割と異なり、契約内容によって譲渡する事業を選べることが特徴です。

譲渡に際して負債や簿外債務を抱え込むリスクがないなどのメリットがある一方、手続きの煩雑さと税負担の重さがデメリットといえます。

会社分割とは?

会社の権利のすべて、もしくは一部を別の会社に承継することを会社分割といいます。会社分割には、新たに設立した会社に分割する「新設分割」と既存の他社に譲渡する「吸収分割」があります。いずれも、現状打破の組織再編を目的として用いられることの多いM&Aの方法です。

事業譲渡に比べ、手続きがシンプルなこと、経営統合をスムーズに行えるなどのメリットがあります。買い手企業の株価が下落する可能性、株主構成の変化などがデメリットといえるでしょう。

会社譲渡・M&A相談ならウィルゲートM&A

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IT業界のM&A最新動向 まとめ

IT業界のM&A最新動向 まとめ

時代のニーズと競争するかのようなIT業界の躍進を支えるのは、フレキシブルな発想とM&Aへの前向きな取り組みといえるでしょう。IT企業のM&Aは企業間の交渉というよりは、社会全体のニーズとして選択されているといっても過言ではありません。

比較的若い経営者が多く、事業承継や後継者問題の解決というより成長戦略のひとつと捉えてのM&Aが多く見受けられます。会社設立時に数年後のM&Aを視野に入れている経営者も少なくありません。今後も頻繁にM&Aにおける業界再編が行われるものと予想されます。

とはいえ、情報収集に長けたIT企業であってもM&Aの契約成立までにはさまざまな障壁を越えなければなりません。専門家や仲介会社に相談するのが望ましいでしょう。

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