SaaS事業強化に向けチャットツールに期待!上場会社同士のM&A、面談から1ヶ月半のスピード成立

売却した会社

AI CROSS株式会社(エーアイ クロス) 様

https://aicross.co.jp

買収した会社

ナレッジスイート株式会社 様

https://ksj.co.jp/knowledgesuite/

「セキュリティ万全な法人チャット」と高評価を得る、ビジネスチャット「InCircle(インサークル)」。

AIを活用したビジネスコミュニケーション・プラットフォームを提供するAI CROSS株式会社。代表取締役社長の原田 典子氏は前職時代、企業がユーザーとコミュニケーションをするためのSMSサービスと、企業内コミュニケーションのためのチャットツール「InCircle」を新規事業として立ち上げ2015年に分社化。その後社内リソースの課題から、チャット事業には顧客基盤を持つ企業とのパートナーシップが有効と、M&Aも視野に入れながら、パートナーを探していました。

主力サービスであるクラウド型の営業支援SFA・顧客管理CRMサービス「KnowledgeSuite(ナレッジスイート)」や、オンライン会議・オンライン商談サービス「VCRM」の提供企業であるナレッジスイート株式会社は、同社のサービスラインアップ拡充のため、ビジネスチャットサービスの展開を検討していました。そして、ウィルゲートの仲介によって高いセキュリティと評価を得ている「InCircle」に注目し、その事業を継承します。

上場企業同士のM&Aとなった本件成約までの道のりや今後の展望について、両社代表のお二人にお聞きしました。

顧客基盤とエンジニアごとジョインし、DX化の波に乗ってさらなる拡販へ

御社の創業の経緯を教えてください。

原田氏:

私の社会人生活は、外資系企業で始まり、その後20代の時に渡米し、そこで勤務していました。その当時、アメリカではショートメッセージマーケティング(SMS)の会社が前年比6,000%くらいのものすごい成長を見せていて、私もビジネスモデルとして注目していました。

当時、妊娠中だった私は、仕事をしながら子どもに関係する情報収集をするのにSMSを使っていたのです。また、子どもの生年月日を登録すると、さまざまな情報が定期配信されるなど、自動応答サービスがたくさんあったのです。アメリカではそのような状況だったのに、日本に戻ってきたら区役所から届く情報はすべて紙の書類で、カルチャーショックを感じました。

アメリカでは日本人であろうと、女性であろうと、20代であろうと結果さえ出せば良いというカルチャーです。ところが、日本に帰国して勤めていた企業はアメリカ時代とは真逆で、朝8時には出社し、企業理念を唱和する職場で、子どもを育てながら働き続けるのは難しいのだろうかとも思いました。

しかし、アメリカのようにSMSのサービスが増えれば、私のように子どもを抱えるお母さんたちのサポートになるのではないかと考え、勤めていた会社で新規事業として立ち上げました。また、SMSとともに着目していたビジネスチャットも、新サービスとしてリリースしました。

SMSサービスと、ビジネスチャット「InCircle」との違いをお教えください

原田氏:

企業とユーザーとのコミュニケーションにはSMSサービスをお使いいただき、企業内や企業間のコミュニケーションをビジネスチャット「InCircle」が担うという位置付けです。

実はチャットに関して、当初はB to Cも検討していて、カカオトークが韓国でブームになり始めたときに視察にも行きましたし、その後、2011年の東日本大震災が起きたあとにLINEが伸び始めるのを目にするうち、「これからは企業向けのチャットコミュニケーションが来るだろう」と考え、B to Bに舵を切りました。

ビジネスチャットは他にもありますが「InCircle」の強みはどのような点にあるのでしょうか

原田氏:

ビジネスチャット提供にあたって、さまざまなお客様と話をしていくなかで、一番気にされるのがセキュリティでした。「情報漏洩が心配」という声が圧倒的だったのです。

ビジネスチャットの導入率に関するアンケートでも、先進国の中で日本はいつも最下位、日本企業が導入になかなか踏み切れない最大の理由は常に「情報漏洩が怖いから」というものでした。

そのため、企業に導入していただくには「セキュリティを最も重視すべき」と早い段階から考えていました。その結果、政府も採用する高度なセキュリティ技術を実現し、「セキュリティに万全な法人チャット」という評価をいただくようになりました。

「InCircle」の事業展開イメージはどのようなものだったのでしょう?

原田氏:

競合他社のさまざまな製品やサービスにも常に目を向けているのですが、外資系のサービス、たとえば ERP にしても、CRMにしても海外から入ってきても、日本のお客様からよく言われるのは「やっぱり国産が良い」という声です。ビジネスチャットについてもあれこれ見比べた末にInCircleをお選びいただくことも少なくありませんでした。

特に、チャットの導入に抵抗を持ちながら、それでも「やらなきゃならない」と思っている方は多く、そういう方はたびたび報道されるデータ漏洩のようなことをとても嫌われます。外国製は良くないというわけではありませんが、特に中小企業の方の中には「日本製がいい」という声が多いので、純国産のビジネスチャットである「InCircle」はシェア拡大の可能性は大いにあると考えていました。

サービス拡大を目指す中でぶつかった壁

今回「InCircle」についてM&Aを検討するに至った経緯を教えてください。

原田氏:

2019年の上場から1年少しが経過し、コロナ禍となりました。当時は「とにかく売上を」という時期でもありました。その時点で当社のサービスにおいては、どちらかというとSMSのほうがビジネスチャットの「InCircle」より知名度が高く、当社のリソース的なことを考慮し、「選択と集中」を行う決断をしました。

とはいえ、「InCircle」はゼロから立ち上げたサービスであり、日本のビジネスチャットにおける黎明期から広げてきたという思いもあります。そのうえ、全国にはまだまだ営業余地もたくさんあり、DX化の流れも来ているなか、「InCircle」を拡販していくのは今の当社の営業リソースでちょっと厳しいということで、M&Aというよりは、営業面での戦略的パートナーを探していました。

重視していた条件や要素はありますか?

原田氏:

シェア拡大にあたって、顧客基盤を持っていて営業力があるパートナーを求めていました。特に、当社だけでは届かないような範囲、つまり商圏を全国に広げることができる会社です。これから、DXは中小企業や地方に入っていくと思うので、そういうところに広げられる会社を探していたのです。

当社ではSMS事業部とInCircle事業部という感じで事業部が分かれており、ターゲットの違いからクロスセルもほとんどできませんでした。1つの会社の中に2つの会社があるような状態になっていたのです。

しばらくは戦略的にどこかと組むことを考えたのですが、それよりも1つの事業部ごと、顧客基盤や販売リソースを持っている会社といっしょになったほうが良いのではないか、と考えるようになりました。

正直、複数の事業部に十分なリソースをかけるのは難しく、であれば、しっかり投資して他のプロダクトも持っていて戦略的にやってもらえる企業にお任せしたいと。その中でナレッジスイートさんなら「InCircle」の事業を広げてもらえると思いました。

実は、M&Aが成立していざチャットチームのメンバーを送り出すとなったとき、いろんな思いが込み上げてきたんですね。自分のアイデンティティとして、ビジネスチャットがスマートワークを実現するという考えもあったので、最後の最後はとても複雑でした。でも、私は日本企業がビジネスチャットを使って業務効率を高めてもらいたいと願っていましたので、ナレッジスイートさんによって実現できるならそのほうが良いと、気持ちを切り替えられました。

過去の経験から生まれた独自の計算方法でM&Aの可否をスピーディに判断

引き受け先となったナレッジスイート株式会社についてご紹介いただけますか?

稲葉氏:

弊社は中小・中堅企業向けの営業支援、要するに売上アップを目的とした営業活動における効率化の為のDXサービスを、クラウドで提供している会社です。中小・中堅企業に対して直販で約2,200社、OEM合わせて8,000社以上に当社のサービスをお使いいただいています。

私たちがよく言っているのは「中小・中堅企業の売上を100%伸ばすためのサービスを提供しています」ということ。しかるべきプロセスに応じてやっていけば、中小・中堅企業の売上は100%上がります。

たとえば「月末の残り1週間で100万円分を営業で獲得しよう」と言われたら、いきなり電話帳を開いてテレアポをしはじめるような人がいます。そうではなく、「現時点で商談が何件残っているか」「2週間動いていない商談は何件あるか」など、当社のサービスをクリックすると一覧ですぐに見られます。

要するに無駄に動くのでなく、いま動くべき顧客をリアルタイムに抽出して、それに合わせて動いたほうがより効率がいい、そういったことを提供しているサービスです。

大企業は縦割りの組織で動いていて個々のスタッフが担当領域を持っています。ところが、中小企業は一人で何役もこなさないといけません。弊社では、一人が何役も効率的にこなせるように支援するサービスを提供しています。中小・中堅企業の売上を100%アップさせることによって、日本経済を底上げさせることに当社はフォーカスしているのです。

御社はこれまでいくつものM&Aをされてきたそうですね。M&Aの方針について教えてください。

稲葉氏:

いま当たり前のようにエンジニア不足といわれていますが、それについて各社「どうしたらいいか」各方面で悩まれている時期があったと思います。当社でもその課題が浮き彫りになり、解決策がなかなか見つけられなかったとき、「エンジニアリングのリソースを手に入れる」という考え方をしたのが当社のM&Aの始まりです。

SES(システムエンジニアリングサービス)という業界の中で、どういうスキルを持った従業員がいるのかをしっかり調査した上でM&Aをしたこともあります。

現在、大手企業も言っているとおり、エンジニア不足を解消するには「M&Aしかない」ともされ、SES企業の価格が高騰しはじめていますが、当社ではいち早くSESを2社、M&Aしました。ほかに、プロダクトの事業譲受の経験もあります。あとは、今回のビジネスチャット「InCircle」のM&Aは4社目です。ほかにも、多くの会社に出資をしています。

SESのM&Aはひと段落しましたので、現在は自社でエンジニアを育てる方針に変更しています。

ビジネスチャット「InCircle」のM&Aのお話はいつごろ聞かれたのでしょうか?

稲葉氏:

以前、SalesforceによるSlackの買収が大きな話題になりましたが、ビジネスチャット領域というのは、組織を横軸でつながるコミュニケーションともいます。「InCircle」とナレッジスイートが一緒になれば、中小企業においても社員同士のコミュケーションが円滑になり業務効率がよくなると考えました。

実は当社でも現在開発中の新KnowledgeSute(ナレッジスイート)のいちサービスとして捉えていたコミュニケーションツールの開発を進めていたタイミングでしたが、チャット領域は初めての領域でしたのでいくつかの課題やポイントが上がっていました。そのような状況の中、M&Aのお話が来たのです。2021年の2月のことでした。

「InCircle」のM&Aに魅力を感じた理由を伺えますか?

チャットの開発に取り組んでいたこともあり、「サービスだけでなく、エンジニアもいっしょなら積極的にM&Aを進めよう」とすぐに考えました。しかも、「InCircle」はすでに多くの顧客基盤を持っていて、エンジニアがその顧客を支えるノウハウを持っていることに興味を持ちました。

顧客がいて、エンジニアがいる。それらが、現在新KnowledgeSute(ナレッジスイート)を開発しているメンバーにジョインできる、という考え方を持ったのが、M&Aを行うことになった発端です。顧客の数と、開発のノウハウ、運用のノウハウを理解しているメンバーがいるというのがポイントでした。

「InCircle」M&Aの最終的な決め手はどこにあったのでしょうか?

稲葉氏:

私たちは独自に買収時の評価額の計算方法を持っているので、そこに収まる案件であれば進めることができます。自分たちがやりたいこと、欲しいものという前提で、私たちの計算方法に収まるか、収まらないかで、私が取締会を通せるか、通せないかも決まってきます。今回、その計算に収まったということです。

M&Aを終えて

今回M&Aを通じたウィルゲートの印象はいかがでしたでしょうか?

原田氏:

前からいろいろな人間関係があり、付き合いのある中でウィルゲートさんなら、と考えました。実は、ほかにも何社か声かけしていたのですが、ウィルゲートさんの動きが一番早かったです。スケジュールを含めて検討していた部分もあったので、スピーディに動いていただけたのは本当によかったです。

私にとってM&Aという意味では初めてのディールで、創業者でオーナー経営者がいる会社であれば最初にオーナーの方に会わないとダメだなと思いました。M&Aに限らず、これまでのディールを思い出してみても、2ケ月かけて詰めてきたものを最後にオーナー経営者の方にひっくり返され、その2ケ月が無駄になったといったこともあるからです。

そのあたりを考えても、ウィルゲートさんは相手のオーナーさんと会うためのセッティングも早く、助かりました。私自身も忙しく、面談をするにしても数を絞ってほしい、という要望にもきちんと応えてもらえたのもありがたかったです。

稲葉氏:

M&Aの希望スケジュールがあらかじめ提示されていましたので、「そのスケジュールを守りたいならこの通りにお願いします」という全体の流れをウィゲートさんに示したら、その通りにやっていただけたので、それはやりやすかったですね。また、いつ質問してもすぐに返事が返ってくるのも大いに助かりました。

M&Aを検討している方や不安を持っている方に対して伝えたいことはありますか?

原田氏:

今回のM&Aはプロダクトだけを預けるのでなく、社員ごとお世話になるので、合わないカルチャーのところですと、行ってすぐ全員辞めてしまったということになりかねず、そうなったら事業も立ち行かないでしょう。そうならないためにカルチャーや規模などにも注目したほうがいいと思います。

稲葉氏:

初めてのM&Aというとき、「相手が売るということは何かマイナスな要素があるんだろうな。じゃあ、買える要素なんてない」と考えてしまいがちです。そうではなく、自分たちが求めているものを基準に見る目が必要です。

当社でいえば「顧客とノウハウが欲しい」というポイントを絞って、現にいくらの価値があるのかを、自分たちが持つ算定基準などから割り出し、自分たちにとっての価値を判断しました。あとは、自分なら「この会社や、このサービスを成長させられる」と自信を持って思えるかどうかでしょう。

「InCircle」のM&A後、金融機関など多数の新規取引先から問い合わせをいただき、いろいろと動いています。また、私たちのメインの顧客である中小企業ではまだビジネスチャットを活用されておらず、情報漏洩を懸念されるお客様も多いです。今回、さまざまなノウハウを持つメンバーが加入したとことによって、ナレッジスイートに新たな機能を実装できるようになることも期待しています。

参加者情報

売り手様プロフィール

原田典子 氏 (写真左から2人目)
譲渡企業:AI CROSS株式会社(エーアイ クロス)
設立:2015年
事業内容:
Smart AI Engagement事業、メッセージングサービス開発・運営、HR関連サービス企画・開発・運営
https://aicross.co.jp

買い手様プロフィール

稲葉雄一 氏(写真右から2人目)
譲受企業:ナレッジスイート株式会社
設立:2006年
事業内容:
DX事業、BPO事業
https://ksj.co.jp/knowledgesuite/

仲介企業

インタビュアー:吉岡 諒 ウィルゲート専務取締役(写真左)
M&Aアドバイザー:鷹巣 僚 ウィルゲート(写真右)

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